「残念ながら境内のトイレは撤去することになりました」。兵庫県西宮市の古刹・鷲林寺の境内でこのほど、参拝者用トイレの撤去工事が始まった。市の都市景観賞も受けた美しい外観のトイレがなぜ-。住職の藤原栄善さん(62)に話を聞くと、苦渋の決断であることが分かりました。(まいどなニュース・金井かおる)
同寺は平安時代の833年に建立された。藤原さんは今から40年前に先代から住職を引き継いだが、当時から境内のトイレを使うハイカーのマナーの悪さに悩まされていた。
トイレは本来参拝者用だが、ハイカーが利用者の9割を占める。あるハイキングガイドには登山コースにある最後のトイレスポットとして紹介され、一部にトイレを汚しても拭き取らず、そのままの状態で立ち去る人がいたという。その様子を見かねた檀家の高齢女性が「新しくしたら、汚くはしないでしょう」と2007年、現在の水洗のトイレの寄付を申し出た。
トイレは和と洋の要素を巧みに取り入れた外観で、境内や周囲の山々の緑とも調和し、2010年には市の都市景観賞まちなみ建築部門を受賞。参詣者だけでなくハイカーら一般の人も使えるよう配慮されていることも受賞の理由だった。
それでも、一部のマナーの悪さは変わらなかった。誰が残したものか分からない汚れを一生懸命掃除するが、人手は限られる。偶然汚された直後に利用した人に「トイレが汚い」とSNS(交流サイト)に投稿されることも。手洗い場の水道の栓を壊されたり、トイレットペーパーを持ち去られたり、「ペーパーがないじゃないか!」と怒鳴られたこともあるという。
さらには、法会中の本堂や鐘つき場に腰掛けてお弁当を広げる人まで…。藤原さんは言う。「先代の住職夫妻は『こんな山の中に人が来てくれることがうれしい、お寺に関係のない人でもありがたい』とずっと言っていました。私も人が喜んでくれて、山のきれいな空気を吸って、気持ちよく帰ってもらうことが願いでした。しかし、長きにわたり、きれいにお使いいただくよう勧告してきましたが、全く改善されなかった」
有料化や市に管理を依頼することも考えたが、とうとう手に負えなくなり、撤去を決意した。寄進してくれた女性は2年前に亡くなったといい、生前「人の心を信じてたけれど、残念やな」と言っていたという。
「残念で仕方ないです」。藤原さんは無念さを隠さない。檀家や信者のためのトイレだったが、墓参りの時も使えなくなった。施設は今後、改築工事を行い、瞑想(めいそう)室や滝行のための脱衣所として利用するという。
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