阪神

  • 印刷
ミズバショウが姿を消した湿地=西宮市仁川町6
拡大
ミズバショウが姿を消した湿地=西宮市仁川町6
湿地いっぱいに植わっていたミズバショウ=2022年4月19日(仲誠一さん提供)
拡大
湿地いっぱいに植わっていたミズバショウ=2022年4月19日(仲誠一さん提供)

 知る人ぞ知るミズバショウの群生地がある兵庫県西宮市仁川町6の仁川緑地でこの春、異変が起きた。湿地に数十株は植わっていたはずが、影も形もなくなったのだ。3月末から4月にかけて、白い「仏炎苞(ぶつえんほう)」に包まれた花を楽しみにしていたハイカーらはがっかり。ミズバショウはどこへ消えたのか。(吉田敦史)

 「跡形もなくこつぜんとなくなっていました」。メールで知らせてくれたのは、同市の仲誠一さん(78)。健康のために毎朝、近くの県立甲山森林公園(同市甲山町)を歩いているという。その北側に隣接する仁川緑地にミズバショウの群生地があり、今月9日、仲間と楽しみに見に行くと、一株も見当たらなかったという。

 本当に一つ残らず? にわかには信じられず、仲さんに現地を案内してもらった。甲山森林公園の駐車場から約40分歩いて仁川緑地に到着した。かつての植物園跡で散策路は整備されているものの、利用者は多くなさそうだ。緑地の奥へさらに5分ほど行くと湿地に着いた。

 仲さんはスマートフォンを取り出し、昨年4月19日に撮った写真を示す。「以前はこんなにあったんですよ」。画面には緑の葉が大きく伸びたミズバショウが数十株は写っている。だが、目の前には全く生えていない。仲さんは「盗掘なら許せない」と憤った。

■注意書きの掲示も検討

 地元でひそかに愛されていたミズバショウ。何者かがごっそり持ち帰ったのだとしたら悪質だ。仁川緑地を管理する西宮市花と緑の課に認識を聞いてみた。同課の生物多様性推進チーム副主査、片山鈴さんは「なくなった状況は把握しています」と回答。市民から複数の問い合わせを受け、3月27日に現地を確認したという。

 ただ、盗掘かどうかについては「その可能性が高い、とは思いますが…」と言葉を濁した。そして「いつなくなったかを把握できていないため、断定はできません」と続けた。

 同チームでは月1回程度、維持管理のため仁川緑地を訪れるが、変化に気づかなかったという。冬場のミズバショウは地中に隠れているため、無理もない。片山さんは「隠れた名所だったと知らなかったので、意識して確認してなかったというのも正直なところです」と打ち明けた。

 市として再び植えることは考えていないという。仁川緑地はもともと阪急電鉄が1976年に開いた「仁川自然植物園」で、ミズバショウは植栽されたものだった。本来自生していなかった植物をあえて戻すのはふさわしくないという考えだ。緑地の入り口や現場の湿地に、注意書きなどの掲示を検討しているという。

■動物が食べた痕跡ない

 盗掘以外に考えられる理由はあるだろうか。ミズバショウを植栽している六甲高山植物園(神戸市灘区)の広報担当、田中綾子さん(28)に聞いてみた。

 例えばイノシシなどの動物に食べられた可能性。田中さんは「確かに、北海道では冬眠明けのクマが食べるということが知られています。お通じが良くなる成分があるからです。ただ、動物に食い荒らされたとしたら何らかの痕跡が残るのでは」と説明してくれた。

 では死滅の可能性はどうか。これには「ぬかるんだ土で育つので、からからに乾いたらあるいは…」とのことだったが、見たところ、水は流れているようだった。

 やはり盗掘なのか。田中さんは「ほかとは違う見た目など、手の届くところにある希少な植物が持ち去られることは、ミズバショウに限らず山野草で広くあることです。園内でさえ取られてしまいますから」と教えてくれた。最近では2019年に「野生ランの王者」と呼ばれる希少種「アツモリソウ」が盗掘されたという。

     ◇

 仁川緑地のミズバショウは数十株が完全に姿を消した。もし盗掘なら、個人の出来心の範囲を完全に超えている。仲さんは「甲山周辺の自然を愛する者にとっては悲しく、耐えがたいこと。いくつかだけでも戻してくれたら再生できるのに」とやりきれなさをにじませた。

阪神
阪神の最新
もっと見る
 

天気(9月27日)

  • 29℃
  • ---℃
  • 0%

  • 29℃
  • ---℃
  • 0%

  • 31℃
  • ---℃
  • 0%

  • 30℃
  • ---℃
  • 0%

お知らせ