下肢障害がある選手らがバーベルを持ち上げて競うパラ・パワーリフティング。日本を代表する選手の練習を支え、さまざまな障害がある人たちの交流の場にもなっているジムが姫路市にある。週1回、無料開放している代表の大塚博幸さん(46)は「強くならなくてもいい。人とつながりを持ち、社会復帰するプロセスを大事にしたい」と語る。
8月下旬。「兵庫県パラ・パワーリフティング連盟」理事長も務める大塚さんのジム「RECON(レコン)」で練習会が開かれた。世界で活躍する選手らが下半身を固定する台にあおむけになると、和やかな空気が一変。瞬間的に表情が締まり、筋肉の隆起とともにバーベルが上がった。
男子97キロ級で195キロの日本記録を持つ高砂市の田中翔悟さん(40)は「強くなりたくて来た。このジムは強い人が多い」と話し、東京パラリンピックにも出場した神戸市の光瀬智洋さん(32)は「公式台があるのは県でここだけ。ありがたい」と語った。
兵庫県勢の活躍は目覚ましく、国内登録選手80人超のうち6人が兵庫の選手だ。競技が盛んになった理由を大塚さんに尋ねると、県連盟の前身団体を創設した故仲博幸さんの功績があるという。
仲さんは毎週木曜、神戸市の施設で障害がある人向けの「バーベル友の会」を開催。バーベルを持ち上げられない人がいれば、重りを付けるシャフトを半分の重さのものを用意するなど、誰もが競技を楽しめる環境をつくった。健常者との交流大会も積極的に開いた。大塚さんも2013年の事故が原因で下肢障害がある。失意の時間を過ごすうちに仲さんと出会い、競技の道へ。20年にレコンを開業し、仲さんが21年に急逝してから連盟の運営を担っている。
毎週土曜の無料開放日は障害がある人たちが体力向上などを目的に訪れる。おしゃべりだけで帰る人もいるが、それでもいいと大塚さんは語る。「スポーツを通じ、その方の人生がプラスになればいい」。仲さんから受け継いだ思いだ。
【パラ・パワーリフティング】 スクワットなど複数種目がある健常者競技とは異なり、台にあおむけになるベンチプレスのみで競う。バーベルを持ち上げる際、足の感覚がない選手らは落下の恐れがあるため、台は健常者よりも広いタイプを使用。障害の種類や重さによるクラス分けはなく、体重別で実施する。パラリンピックでは1964年東京大会から採用された。