10月26日に投開票された宮城県知事選では交流サイト(SNS)を中心に、大量の誹謗(ひぼう)中傷の投稿や真偽不明、虚偽の情報が拡散され、有権者の投票行動に影響を与えたといわれている。SNS旋風が吹き荒れ、全国の注目を集めた兵庫県知事選から1年。あの時の「熱狂」が宮城県でも再現されたのか。二つの知事選の共通点は。宮城の地で何が起きたのかを取材した。(「民意×熱狂」取材班)
■「悪行14選」非難画像が拡散
「街頭に立っていると、日に日に聴衆からの敵意を感じた。身の危険を感じるほどだった」。6選を果たした村井嘉浩・宮城県知事(65)は6日、神戸新聞社の取材に応じ、そう語った。
宮城県知事選には現職の村井氏をはじめ、元県議ら過去最多に並ぶ計5人が立候補。選挙前は、東日本大震災からの復興施策など5期20年の実績と、全国知事会長などを務めた抜群の知名度を誇る村井氏が、圧倒的に有利というのが大方の予想だった。
だが、ふたを開けてみれば次点の元参院議員・和田政宗氏(51)と1・83ポイントの僅差。県政史上、まれに見る激戦になった。村井氏は「正直、選挙の途中に敗戦の弁を考えていた」と振り返る。
「売国奴」「国賊」「日本の恥」-。17日間の選挙期間中、SNSやユーチューブには村井氏への非難があふれた。中でも、大量に拡散したのが村井氏の顔写真とともに「悪行14選」などと書かれた画像だ。
そこに記された「メガソーラー大歓迎!!」などの言説は、いずれも根拠が示されておらず、村井氏が真っ向から否定したものも少なくない。だが、あまりの拡散ぶりに村井氏はデマの打ち消しに追われた。演説場所も襲撃の可能性を心配し、詳細を明かさないようにした。
「最初は無視してたんです。でも、私が全然言っていないことを言われるようになってきた。ウソや出まかせがどんどん広がり、釈明にエネルギーを注がなくちゃいけなくなってきた」
選挙戦12日目。村井氏はSNS上での事実に基づかない誹謗中傷について「法的措置を取る」とする動画を公開した。強硬な姿勢を打ち出したことで、デマの投稿数は減ったが、選挙戦が終わるまで完全に消えることはなかった。
「兵庫県の知事選挙の時になあなあにしてしまった結果、このようなことが起きてしまった」
村井氏は、SNS選挙の“震源地”となった兵庫県知事選での教訓が、全く生かされていないと憤る。
「今回のようなことは、どこでも起こりうる。デマが出回れば、まともな政策議論ができない。もう民主主義の崩壊ですよね、こんなの」
■「何と向き合っているのか」 悪意の攻撃、宮城県議にも
攻撃的な言葉や偽・誤情報が飛び交った宮城県知事選。交流サイト(SNS)やユーチューブで攻撃の対象になったのは候補者だけではない。兵庫県知事選と同じように県議や支援者を巻き込み、“悪意”は拡散されていった。
〈移民にコイツの家族を襲撃させたらいい〉
〈移民が来たらご自分の嫁、孫をレイプしてくださいと捧げてくださいね〉
10月15、16日。宮城県議会最大会派「自民党・県民会議」の村上智行氏(57)のSNSにこんなコメントが付いた。
村上氏は宮城県知事選に立候補していた現職村井嘉浩氏の支援を表明。選挙期間中、村井氏の様子を発信し、支援を呼びかけていた。〈売国奴宣言ですね。いい度胸です〉などの言葉も次々に寄せられた。
村上氏は「悪意のコメントはもちろん嫌だったが、同調して『いいね』を押す人がいることも、すごく気持ち悪かった」と語る。すでに警察に相談し、開示請求の準備を進めている。
同じく、村井氏を支援していた公明党県議団の遠藤伸幸氏(48)も標的になった一人だ。
対立候補の主張を「実現不可能だ」と批判し、〈土葬墓地建設を宣言〉〈メガソーラー推進派〉などネット上に流布した村井氏に対する誤情報には、独自の「ファクトチェック」をしていた。こうした発信には差別的なコメントが相次いだ。
〈少しは身を守る方法を覚えたら? 討ち死にするよ〉と危害を連想させるような書き込みも。兵庫県民を名乗るコメントや、兵庫県で知事を批判した県議に辞職要求の署名が広がったことに触れ、脅すようなコメントもあった。
遠藤氏は「兵庫県知事選で(「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者が)県議の自宅に行ったことが頭の中のイメージにあった。家には幼い子どももいる。リアルに怖かった」と振り返る。
今回取材は実現しなかったが、元参院議員で参政党の支援を受けた和田政宗氏もSNSで誹謗(ひぼう)中傷やデマの被害を受けていた、としている。
「洪水のようにデマが流れていた」と遠藤氏がいう宮城県知事選だが、転機になったのは選挙戦中盤に村井氏がアップした動画だ。
SNSの虚偽情報を否定し、法的措置を取ると強い姿勢を打ち出した。村井氏は「あれで目に見えて、誹謗中傷やデマが減った」という。
村上、遠藤両県議も誤情報を正す発信を続けた。2人は「炎上が怖いからといって発言を控えた議員も多かった。でも、虚偽情報に基づいた選挙によって県政が混乱すれば県民が困ると思った」と語る。
当初、村井氏の最有力の対抗馬とみられていた元立憲民主党県副代表の遊佐美由紀氏(62)も目に余る状況を前に「フェアな選挙をしましょう」と呼びかけるようになった。
情勢は「村井氏VS和田氏」の一騎打ちになりつつあり、遊佐氏は埋没していた。それでも、遊佐陣営の県議、平岡静香氏(40)はX(旧ツイッター)で〈作為的にデマを流布し、県民の不安をあおる勢力に対しては強く抗議する〉と投稿。これにも多くの批判コメントが付いた。平岡氏は逐一、反論や返信をしたが、匿名の投稿者から反応はほとんどなかった。
「一体、何と向き合っているのか分からなかった」
平岡氏の言葉は、1年前の兵庫県知事選で、斎藤元彦氏に敗れた元尼崎市長の稲村和美氏が選挙後に発した言葉と同じだった。
























