時に油断したウサギを追い抜かしたり、時に竜宮城に連れて行ってくれたり。古今東西さまざまな物語に紡がれてきたカメがこのたび、物静かなおばあちゃんとの何げない日常を描いた漫画になります。11日、朝刊広域面でスタートする連載「おばあちゃんとかめ」。何も起こらないけど、何かが起きている-。そんな通称「おばかめ」について、絵本作家でデザイナーの作者やましたこうへいさん(52)に聞きました。(大盛周平)
-作品を描く端緒の端緒は、やましたさんがカメ愛好家なことですよね。
20年以上飼っています。29歳であてもなく東京に出て、寂しくて。何か飼おうと思って行った新大久保の金魚屋さんで、クサガメ1匹を見つけたんです。今はニホンイシガメ5匹、ウンキュウ(イシガメとクサガメの交雑種)も3匹飼っています。自然観察に出かけ、カメを探しにいくこともあります。特に好きなのはニホンイシガメですね。
-飼おうとしたのが犬でも猫でもなくカメ!
小さい時も飼っていたんですよ。住んでいた社宅では犬や猫が飼えず、代わりにクサガメを飼っていました。仕事人間だった父との思い出はあまりないんですが、冬眠させてあげるためにブロック塀で囲って、その中でカメを眠らせてあげようと父が言い出して。で、春に見たらいなくなっていた。脱走したんです。びっくりして、悲しくて。
東京でクサガメを飼い始めたのは、その思い出がどこかにあったからかもしれません。自分にとって身近な小動物だったんですね。あと、カメのどんくさい感じにシンパシーを感じるのかも(笑)。
-その後、作品を描くきっかけが訪れます。
東京でカメを飼い始めて何年か後、うちにいた2匹の子ガメを実家に「飼ってみないか」と出しました。当時仕事をリタイアしていた父に、何か趣味をつくってもらいたいと思ったんです。とにかく働く人で、趣味をつくれなかったんです。両親がものすごく丁寧にカメを飼ってくれたのがはじまりです。
その後、父が亡くなり、母だけが続けて飼うことになりました。母はカメの飼育の日記をつけていたり、カメとの日常を書いた投稿が新聞(別の新聞です)に掲載されたりしたんです。日常が面白いんだと、いい意味でジェラシーを感じました。
-今作の主人公「おばあちゃん」のモデルはそうすると…
母とカメとの関係性を聞くと確かに面白くて、作品にできないかなぁと思って描き始めた、母の実話を基にしたのが今回の「おばかめ」なんです。
【やましたこうへい】デザイナー、絵本作家。1971年熊本生まれ、神戸育ち。大阪芸術大卒。大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」の作者。絵本・児童書多数で近著は絵本「きょうりゅうゆうえんち」(ポプラ社)。