老朽化したマンションは修繕して延命すべきか、それとも解体すべきか-。兵庫県芦屋市にある築58年のマンションが岐路に差しかかっている。管理費と修繕積立金の月額は15年前までの5倍超に。修繕費用が高額化し、さらに値上げしないと立ち行かなくなるが、合意形成は見通せない。管理組合の役員を訪ね、現状を取材した。(斉藤正志)
■外観からは古さ感じず
駅から歩いて5分ほど。利便性のいい場所に、そのマンションはあった。
外壁はきれいに塗装され、階段などに劣化の跡は見当たらなかった。
取材で管理組合の副理事長の男性(74)宅を訪れ、「もうすぐ築60年になります」と言われたときは驚いた。
管理が行き届いており、外観からはそんなに古いとは思えなかった。
男性によると、マンションは1966(昭和41)年に完成。建設会社の社宅として建てられ、その後、分譲されたという。
鉄筋コンクリート5階建て。住居16戸がある。
分譲当初から長らく管理組合がなく、区分所有者による自主管理だった。
正確な記録は残っていないが、共用部分の電気、水道代や植栽の剪定(せんてい)などのため、管理費として毎月3千円程度を区分所有者から集めていたとみられる。
■回覧で合意形成
男性が入居したのは83年。当時は区分所有者が輪番制で「会計担当」を務め、1年に1度、決算報告を回覧していた。
高額な修繕が必要になった場合は、元建設会社員ら業務に詳しい居住者が中心となって計画していた。
回覧に署名してもらって区分所有者の合意を集め、工事していたという。
管理組合設立の必要性が話し合われたこともあった。
83年に区分所有者の大半が参加した会合が開かれ、自主管理の問題点などが議題になったらしいが、記録がなく、詳しいことは分からない。
結局、管理組合はつくられず、自主管理が続いた。
■自主管理に終止符
当時徴収していた管理費の月3千円には、修繕積立金も含まれていたが、修繕などの費用が賄えなくなり、2009年に同5千円に値上げされた。
さらにこの頃から、マンション内で漏水などの問題が出始めていた。
部屋の排水管が下の階の屋根裏を通っている古い構造になっており、漏水して下の部屋に被害が出るようになったという。
外壁の塗装のはがれなども目立つようになり、大規模修繕が必要になった。
その際、業者から、個人ではなく管理組合との契約を求められた。そうでなければ現金での一括支払いになると言われた。
10年、区分所有者らはマンション分譲当初から続けてきた自主管理に終止符を打つことを決める。
建設から44年がたっていた。
しかし、マンションの「老い」は、さらに進行していく。