神戸市中央区港島中町3のマンション「ポートアイランド住宅」で、全国でも最大規模の耐震改修工事が行われている。2022年6月の着工から約2年半の工期で、総事業費は約19億円にも上るが、修繕積立金の値上げはない。異例の大事業を、住民の大きな負担なしに実現できた理由を聞きに、同住宅を訪ねた。(斉藤正志)
■「あらゆる手段を駆使」
ポートライナーの三宮駅から中公園駅まで15分。改札を出ると、林立するマンション群がそびえていた。
人工島のポートアイランドは、1981年に街開き。ポートアイランド住宅は翌82年から84年にかけ、住宅・都市整備公団(現UR都市機構)によって建築された。
5階建て2棟、8階建て1棟、14階建て6棟の計9棟(計941戸)の大型団地。
バブル前夜だった当時、神戸中心部に近い分譲マンションの人気は高く、高倍率の抽選に当たった人が入居できた。
現在の住民は約2千人に上る。
7月中旬に訪れた際、外壁に組まれた足場にはメッシュシートが張られ、工事関係者が作業していた。
同住宅管理組合の特別顧問で、マンション管理士でもある高柳章二さん(79)は「地震はいつ起きるか分からない。やっと念願がかなう」と安堵(あんど)の表情を見せた。
高柳さんは管理組合内で、耐震化や大規模修繕工事を検討する計画修繕委員会(旧耐震改修委員会)の委員長も務める。
資金づくりには「あらゆる手段を駆使した」と話す。
12月にも完成予定という。その出発点は、07年までさかのぼる。
■17年前に発覚した驚きの事実
高柳さんは07年、副理事長の任期を終えて顧問になり、管理事務所の書庫で資料を確認していた。
一束の資料を見つけた。
01年に神戸市の無料の簡易耐震診断を受けた報告書だった。
並んでいた数字を見て驚いた。0・6以上の耐震基準値に対し、全9棟が0・1~0・2だった。いずれも遠く及ばない。
驚いた高柳さんは、診断を担当した建築士と同市の担当者を招き、他の役員らと共に説明を受けた。
そして、さらに驚愕(きょうがく)の事実を知る。
建築士から「ポートアイランド住宅は旧耐震基準で建てられている」と告げられた。
耐震基準は建築基準法で定められ、新基準は震度6強から7程度でも倒壊しないことを目指して設定された。
適用開始は81年6月。同住宅は82年の着工なので、住民の誰もが新耐震基準で建てられたと思っていた。
しかし同住宅の建築確認申請は、81年5月下旬か、それ以前の旧耐震基準の適用期間だった。
いわば「駆け込み申請」だった。
■精密診断に1億円
高柳さんや他の役員はあぜんとした。
95年の阪神・淡路大震災では一部損壊にとどまったが、今後、いつ大地震が起きるか分からない。
安全な住宅に住んでいると、思い込んでいた。
さらに、01年の簡易診断は低層の建物用で、同住宅のような高層建物では正確な診断ができないことを伝えられた。
精密診断には、約1億円かかると言われた。
高柳さんらの「安全な住まい」を求める取り組みは、ここからスタートした。
高い壁が何度も立ちはだかることを、この時は知るよしもなかった。
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