兵庫県佐用町平福の酒蔵跡地にこの夏オープンした複合施設に、姫路市で人気の和菓子店「重次郎（じゅうじろう）」が出店した。限定商品「おはぎ氷」などユニークな逸品が話題だけど、仕掛け人の三木伸雄さん（４９）も異色の経歴の持ち主。元は百貨店のバイヤー、今は、同店を運営する農業法人「みかづきｅ」（旧三日月営農）の代表を務める。もち米や小豆など食材のほとんどが佐用産で、自前の農産物を使ってお菓子を手作りする６次産業化に取り組む。培った視点を生かしつつ、佐用で農業の可能性を広げようと挑んでいる。（勝浦美香）

■元は百貨店バイヤー

　佐用町佐用出身の三木さんは大学卒業後、姫路市内のヤマトヤシキでバイヤーとして１０年間勤務。酒や菓子、アパレルなど、幅広い分野の売り場を担当した。

　流行と顧客のニーズを探り、展示会に足を運んで取引の交渉をする－。いい品物を探す面白さはあったが、都心の大手メディアと、ローカル百貨店の力の差も感じていたという。

　「逆に、地方でできることは何か。考えた時に浮かんだのが農業だった」と三木さん。２００６年に妻の実家が経営していた「三日月営農」に入社し、農作業を一から学んだ。

■「みかづきｅ」発足

　ノウハウを身につけ、経営を任されるようになってからは、バイヤー時代に培った知識も取り入れるようになった。まずは自主流通に切り替え、会社名も親しみやすい「みかづきｅ」に変更した。

　高い品質を追求し続け、１６年、農作物の安全性を証明する国際認証「グローバルＧＡＰ」を取得した。当初は１ヘクタールしかなかった田畑も徐々に増やせるようになり、現在は約２３ヘクタールで米や大豆、小豆などを生産している。

■ものづくりは土作り

　耕作地が広がる中、思い至ったのは、生産から加工・販売まで手掛ける「６次産業」への進出だった。「ものづくりは土作り」をモットーに、生産段階からこだわった食材で商品を作ろうと考えた。

　「まずは多くの観光客が集う姫路城のお膝元で勝負してみたい」。三木さんは１６年、姫路市本町に和菓子店を開いた。

　地域に特化した店にしたいという思いを強め、２年後には店名を「重次郎」に改称した。自身の家系で代々名乗られてきた名前で、歴代の「重次郎」は領主への伝達役や村長など、地域に貢献した人が多かったという。「（佐用町）平福への出店に声が掛かった時は、使命を感じた」と語る。

　改名後は「農家がプロデュースするセレクトショップ」をうたい、自社の和菓子だけでなく、ヒマワリ油やピクルスなど、県内の生産者とコラボした商品も店頭に並べた。「重次郎　平福茶房」では、佐用町内の業者と新商品の開発を進めているという。

■ビジネスモデルに

　三木さんは、最終的な狙いの一つとして「農業のイメージを変えること」を挙げる。

　地域の高校生や若い世代と交流した際、まず若者たちが気にするのは「農業はもうかるのか、食べていけるのか」という点だという。「６次産業という形で成功し、ビジネスモデルを示すことが、次世代の担い手増にもつながるはず」と信じている。

■名物「おはぎ氷」は秋まで　特産もち大豆、ヒマワリ種もスイーツに

　佐用町産の食材にこだわった和菓子を販売する「重次郎」は、看板商品のおはぎや餅以外にも、個性豊かな商品が人気を集めている。

　かき氷は秋までの限定商品だが、小さなおはぎが入った抹茶味の「おはぎ氷」（６００円）が名物。ほうじ茶ジェラート（６５０円）にはポン菓子が添えられ、和菓子の新しい楽しみ方を提案している。

　特産の佐用もち大豆やヒマワリの種を使った「玄米おこし」（１１９円）は、２０１９年に西播磨フードセレクションで金賞に輝いた。新たな土産物としてアピールしている。

【メモ】「重次郎　平福茶房」は午前９時～午後３時。水曜定休。中国自動車道佐用インターから国道３７３号を北に車で５分。智頭急行平福駅から北西に徒歩３分。ＴＥＬ０７９０・７１・００８８