兵庫県赤穂市御崎の浜辺で、夏の風物詩として定着したウミホタルの観察会。暗闇に浮かぶ青白い光は「海の宝石」とも呼ばれ、毎年各地から多くの人が訪れる。が、これは自然に発生した光景ではない。裏では、観光客の安全を優先させるため、平均70歳を超えるボランティアらが奮闘。約3キロ離れた別の場所でウミホタルを捕獲し、“お引っ越し”させているのだ。15年目を迎える観察会は23日スタートする。(小谷千穂)
■手製の仕掛け
まだ空が明るい16日の午後5時半ごろ、釣り人が集まる赤穂港(同市中広)の岸壁に、妙な動きをする4人組がいた。
タイやハモなど魚のあらをはさみで小さく切り、直径10センチ、高さ20センチのコーヒーの空き瓶20本に次々入れていく。ひもを付け、5ミリほどの小さな穴をいくつも開けたふたをして、手際よく「ポチャン、ポチャン」と海に沈めていった。
青いポロシャツを着た4人組の胸には「赤穂海ホタルの会」とある。「来週からお客さんが来るからね。毎年1週間前に、リハーサルをしてるんです」。そう話すのは会長の川上正澄さん(77)だ。ウミホタルは魚のにおいに寄ってくる。3時間後に引き上げ、車で観察会が開かれる畳岩前まで運ぶという。
■安全を最優先
ウミホタルは体長約3ミリの甲殻類。刺激を受けると、体内から出した物質と酵素が反応して発光する。観察会は毎年6月下旬から9月、毎週金曜の夜に畳岩前の浜辺で催される。多い時には1日で約180人が訪れたという。
始まりは2009年にさかのぼる。西播磨臨海部の活性化を目指す「西播磨なぎさ回廊づくり連絡会」に入っていた川上さんと、赤穂市御崎の老舗旅館「銀波荘」の徳田幸造支配人(71)が新たな観光資源を話し合った。赤穂は温泉地もあるのに日帰り客が多く、夜の観光が課題だった。同じ瀬戸内海の淡路島や広島で人気だったウミホタルに目を付け、赤穂でも探し始めた。
市内の海辺を15カ所ほど探したところ、ウミホタルがいたのは赤穂港と畳岩近くの2カ所だけだった。赤穂港は数が多かったが、電灯のないコンクリート岸壁では安全を確保できない。思いついたのが、畳岩前への“お引っ越し”だった。
■大変さ忘れる
午後8時過ぎ。暗闇に包まれた赤穂港で、川上さんらは海に沈んだ瓶を1個ずつ引き上げる。緊張した様子で小声で言葉を交わす。「どうじゃ、おるか」「ヒトデが穴ふさいどるわ」「去年よりは少ないなぁ」
瓶に入ったウミホタルを容器に移し、車で3キロ東の畳岩前へ。ウミホタルを小さな網ですくい、輪ゴムではじいて網から落とすと、浜辺に敷いた幅1メートル、長さ3メートルの黒いシートの上に青白い光が広がった。
毎週、一連の作業をこなして観察会に備える。観察会後はウミホタルを海に戻すという。
水温や場所など、ウミホタルが育ちやすい環境を調べているが、15年目の今でもたくさん捕るこつはつかめない。川上さんは「生き物だから、毎回どうなるか分からずドキドキする。でも来た人が感動する姿を見ると、大変さを忘れる」と目を細めた。
観察会は金曜夜9時から。期間は9月29日まで。銀波荘の宿泊客以外は申し込みが必要。各日定員50人程度(宿泊客優先)。雨天中止。赤穂観光協会TEL0791・42・2602