わなにかかった直後のニホンジカにツキノワグマが襲いかかり、生きたまま食べる様子を東京農工大などの研究チームが撮影し、国際学術誌に世界初の知見として掲載された。調査した同大大学院の稲垣亜希乃特任助教(30)は「生きた状態でも積極的に餌にする姿は驚き」と指摘。シカの捕獲が全国で進められる中、クマを引き寄せる食料源にならないよう注意が必要だとしている。
昨年5月、栃木県内で撮影され、同9月、神戸市内で開かれた日本哺乳類学会で公表された。
シカ捕獲に関する調査のため、ワイヤロープで足を締め付ける「くくりわな」を山中に設置し、センサーカメラで撮影したところ、雌のシカがかかった約40分後に1頭のクマが出没する様子が偶然写った。暴れるシカの胴体にかみついた後、体重をかけるように押さえ込んだり、首をくわえて引きずったりする行動が動画に記録されていた。
最初の捕食後、クマは現場を離れたが、その後の24時間に少なくとも計4回戻っており、時間をおいて繰り返し食べたとみられる。
ツキノワグマは雑食で、山菜や木の実など主に植物食で栄養を賄う。一方、死んだ獣の肉を食べることも知られ、シカについても既に学術報告があったが、生きた状態で襲う行動は確認されたことがなかった。
兵庫県内でも増え過ぎたシカの抑制は課題となっており、年間4万頭以上が捕獲される。わなにかかったシカが食べられる事例はこれまでにも県に複数寄せられ、「クマの仕業では」との見方が広がっていた。
今回の動画が記録された現場では100メートル先に民家があったが、クマは繰り返し姿を見せていた。シカ捕獲直後に現れたことから、わながある場所を学習している可能性もあるという。
稲垣特任助教は「人家の周辺でも餌としての魅力が勝るようなら大胆な出没につながり、人との鉢合わせを生みかねない。捕獲後の迅速な回収法などシカやイノシシ駆除の在り方を見直し、現場に徹底してもらう必要がある」と指摘している。(小林良多)