人工巣塔で育つコウノトリのひな=豊岡市祥雲寺
人工巣塔で育つコウノトリのひな=豊岡市祥雲寺

 日本から一度姿を消した国の特別天然記念物コウノトリを人工繁殖させ、兵庫県豊岡市で再び野外の空に返した野生復帰事業は今年、さまざまな節目を迎えている。野生で生き残ったつがいを捕獲してから60年、人工繁殖させた5羽を初めて野外に放して20年となり、間もなく野外の個体数は全国で500羽の大台に届く見通しという。(阿部江利)

 同県立コウノトリの郷(さと)公園(同市祥雲寺)の近くで6月初旬、地元営農組合の農家らがコウノトリを育む農法による「減農薬米」の田植えに取り組んだ。

 祥雲寺地区では、コウノトリの初放鳥に先立つ2002年に営農組合を設立。農薬や化学肥料に頼らないコメ作りを実践してきた。稲葉哲郎組合長(83)は「ついこの間みたいだが、20年もたつのか」と感慨深げに振り返る。

 コウノトリは翼を広げると幅約2メートルに達する大型の肉食鳥で、カエルやヘビ、昆虫を餌とする。ロシア極東地域などには約1万羽が生息するとされ、かつては日本にも大陸から渡った鳥がすみ着いていた。

 ところが、第2次世界大戦と前後して都市開発や農薬使用の影響を受けて個体数は減り、豊岡盆地が日本最後の繁殖地となった。

 市民は農薬の使用を抑え、コウノトリを保護する道を選んだ。1955年には「保護協賛会」が発足し、絶滅が迫った65年に「必ず空に返す」と誓って野生のつがいを捕獲。飼育下で卵を産ませる「保護増殖」に取り組んだが、農薬などで汚染された高齢の鳥は、ひなをかえすことなく死に、71年に日本の野生コウノトリは絶滅した。