王貞治氏(右)からベストナインの楯を受け取る阪神・佐藤輝明内野手=東京・グランドプリンスホテル新高輪(撮影・西岡正)
王貞治氏(右)からベストナインの楯を受け取る阪神・佐藤輝明内野手=東京・グランドプリンスホテル新高輪(撮影・西岡正)

 名実ともにプロ野球界を代表するスター選手となった。セ・リーグで本塁打王と打点王の2冠に輝いた阪神タイガースの佐藤輝明内野手(26)=西宮市出身=がリーグの最優秀選手(MVP)に選ばれ、充実のシーズンを締めくくった。仁川学院高時代までは全国でも無名。プロで個人タイトルを獲得するまでに成長したスラッガーの原点には、マイペースな性格の中に確かな心(しん)を見いだした恩師の存在があった。(初鹿野俊)

マイペース、個人鍛錬で成長 プロへの道迷いなく

 恵まれた体格から漂う雰囲気に、優れたバットセンス。ただ「どこか真剣味が感じられなかった」。馬場弘行さん(71)は仁川高時代の佐藤選手をこう評す。28年間務めた野球部監督を退いた後も指導には関わっていた馬場さん。強豪とは言えない同校の空気感も相まって、「のんびりしてて、動作も機敏に見えなかった」と振り返る。

 だが徐々に大器の一端がのぞく。目を見張ったのは2年冬からの筋力トレーニングで培ったパワー。個人で取り組んだ鍛錬の成果で「周りに頓着しない。プロ向きの性格かも」と感じたという。練習試合で約100メートル離れた校舎5階まで飛ばしたホームランは鮮烈だった。

 肩も強く、足も速い。大化けの可能性を信じ、進学先が決まらなかった佐藤選手に母校でもある近大を勧めた。高校野球で実績のある指導者がいて育成力が高い一方、仁川高とは違い、プロを多数輩出する名門。厳しい環境への覚悟を問われた佐藤選手は「プロに行きたいです」と迷いなく答えたという。

 馬場さんは「夢ではなく、職業としてプロ野球を見ている」と受け取った。旧知の仲で当時近大の監督だった田中秀昌さん(68)には「一生懸命やってるんだけど、そうは見えないタイプ」とあらかじめ“弁解”したが、近大側は素質の良さを買い、入学が決まった。

 近大では猛練習で力を伸ばし、1年秋から4番。リーグ4年間で14本塁打の新記録を樹立した。大学日本代表に選ばれるなど世代随一の評価を受け、4球団競合の末に阪神に入団した。

 1年目のキャンプ。テレビで見守った馬場さんは目を疑った。打席に立った佐藤選手は投球マシンの球の高さに注文を付けていた。「すごいなこいつ」。プロに入っても教え子は自分らしさを失っていなかった。

 左打者ではNPB初の新人から3年連続20本塁打を放ち、2023年日本一にも貢献。今季は阪神の選手としては39年ぶりの本塁打王のほか、打点王やベストナインも獲得。ソフトバンクとの日本シリーズには敗れたものの、史上初の5試合連続タイムリーと爪痕は残した。

 馬場さんは飛躍の要因に「守備の安定」を挙げる。失策数は昨年の23から6に激減し、「守備のベストナイン」の三井ゴールデングラブ賞も初受賞した。その裏には「見えないところで努力をしている」と断言する。無数のノックを受けたことで、下半身の動きに粘りが出て、打撃にも寄与したとみる。

 米大リーグ行きが取り沙汰されるほどの強打者となった佐藤選手。文句なしのリーグMVPに輝いた教え子に対し、馬場さんは「一流の仲間入りはしたが、人としてももっと成長して、超一流になってほしい」とエールを送る。