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夙川高卒業式後の柔道部送別会で手紙を読みながら泣きだす阿部詩(中央)=2019年3月、神戸市内
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夙川高卒業式後の柔道部送別会で手紙を読みながら泣きだす阿部詩(中央)=2019年3月、神戸市内
柔道女子52キロ級決勝で優勝を決めて喜ぶ阿部詩=25日、日本武道館
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柔道女子52キロ級決勝で優勝を決めて喜ぶ阿部詩=25日、日本武道館
夙川高の卒業式後にサイン攻めにあう阿部詩=2019年3月、神戸市の同校
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夙川高の卒業式後にサイン攻めにあう阿部詩=2019年3月、神戸市の同校
夙川高の卒業式後に柔道部員と記念撮影する阿部詩(前から2列目、左から2人目)=2019年3月、神戸市の同校
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夙川高の卒業式後に柔道部員と記念撮影する阿部詩(前から2列目、左から2人目)=2019年3月、神戸市の同校
夙川高卒業式後の柔道部送別会で笑顔を見せる阿部詩(中央)。左端は東京五輪韓国代表の金知秀=2019年3月、神戸市内
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夙川高卒業式後の柔道部送別会で笑顔を見せる阿部詩(中央)。左端は東京五輪韓国代表の金知秀=2019年3月、神戸市内

 柔道漫画の「YAWARA!」を愛する私は、ヒロインの猪熊柔につい阿部詩を重ねてしまう。

 2人とも軽量級ながらとんでもなく強い。パワーとスピードを兼ね備え、技の切れ味は群を抜く。相手を次々となぎ倒すさまは痛快だ。

 詩は夙川高3年にして世界選手権を初制覇。漫画のようにスムーズに駆け上がっていくなあ、この子は、と思っていた。2019年3月までは。

 夙川高の卒業式の後、柔道部の送別会が開かれた。卒業生の詩は家族や恩師、後輩らが見守る中、壇上に立ち、感謝の手紙を読み始めた。その途端、すすり泣きだした。

 「私はほんとにちっぽけな人間で、試合も怖くて。緊張してないように見えると思うんですけど、ほんとに緊張してて。強い言葉を発してるんですけど、その裏側には『怖い』という心をいつも持っている」

 メディアの前では「怪物になりたい」などと威勢のいい発言を連発している18歳が、顔をくしゃくしゃにして泣いている。驚いた。

 送別会が終わった。この後、関東の日体大へ進学する詩。地元紙の記者としては、見続けてきた選手が郷土を離れるのは寂しい。でも、ビッグになってほしい。「これまでありがとう。これからも神戸から応援している」と伝えた。

 詩はその通り、ビッグになった。世界選手権を2連覇し、東京五輪の代表切符を獲得。だが、新型コロナウイルス禍で1年延期が決まった。昨夏、神戸に帰省していた詩に会った。

 「しんどいのが来年まで続くのかと。きついと思った」。偽らざる言葉だった。

 「オリンピックの後にやることを決めてたんですよ。外国に1カ月ぐらい、家を借りて住む。オーストラリアか、日本語が通じるハワイか。日本にいたら(自分を扱った)記事も目に入るし…」。世界女王が受ける重圧の苛烈さを、改めて突き付けられた気がした。

 7月25日。詩は東京五輪の決勝の畳にたどり着いた。延長の末に金メダルを決めた瞬間、あの送別会のように顔をくしゃくしゃにして泣いていた。いや、くしゃくしゃ度合いはもっと上だ。一気に振り切ったような喜び方に、耐え抜いた日々の重さを思った。無観客のスタンドから私は拍手を届けた。おめでとう。(藤村有希子)

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