クリスマスの夜、一番欲しいものを手に入れた。25日のフィギュアスケート全日本選手権で優勝し、2大会連続の五輪代表に内定した神戸学院大3年の坂本花織(21)。「目標の一発内定を有言実行できて、心がスカッとしています。幸せでいっぱい」。降り注ぐ拍手に、とびきりの笑顔で応えた。
速く、そして高かった。23日のショートプログラム(SP)で頭一つ抜け出すと、この日のフリーも今季ベストの154・83点をマークした。
坂本の滑りを、中野園子コーチらは馬力が大きいスーパーカー「フェラーリ」に例える。SPで計測された滑走速度の最高時速27・4キロは、男子SPの羽生結弦や宇野昌磨より速い。3メートル以上を記録したダブルアクセル(2回転半)の飛距離は女子の日本勢で飛び抜けている。
4年間の成長を刻んだ。17歳だった2018年の平昌五輪は「一番下っ端で駆け上がるだけ」と勢いでつかんだが、今回は違う。スケート技術や芸術性などを示す「演技構成点」を地道に積み上げた。新型コロナウイルス禍でリンクが閉鎖された時期は、蚊に刺されても気にせず公園で踊った。トリプルアクセル(3回転半)や4回転の大技に頼らない決断ができたのも、磨き上げた完成度があってこそと言える。
精神面も成熟した。20歳を機に神戸市内で1人暮らしを始め、自立した。「何事もやらされているだけじゃ駄目。意思をもって行動する」。甘えが出そうな時は「この行動はスケートに必要か」と自らを戒めた。一方、どれだけ有名になっても「普通の大学生」らしさを失わない。練習リンクや地元大会には愛車の軽自動車を駆り、つかの間の自由時間はジグソーパズルやスポ根アニメに熱中する。
6位に終わった平昌大会は「五輪マークを意識しすぎた」と、極度の緊張から急性胃腸炎になった苦い思い出がある。大人になった坂本には心配ないだろう。「今回こそは万全な状態でいけると思う。どの演技もパーフェクトでいけるように頑張りたい」。自分らしく、ありのままに。北京の銀盤で舞う。(山本哲志)