フィギュアスケート女子の北京冬季五輪銅メダリストで世界選手権女王の坂本花織（２２）＝シスメックス、神戸学院大４年＝が、フリーの振り付けをカナダ出身のマリー・フランス・デュブレイユ氏（４７）に初めて依頼した。カナダで楽曲選びから携わり、「一緒に作り上げていく感じが新鮮だった」という意欲作は、オーストラリア出身の歌手シーアの「エラスティック・ハート」。７月に行われるアイスショー「ＴＨＥ　ＩＣＥ（ザ・アイス）」で、新たなショートプログラム（ＳＰ）とともに初披露する。

　■カナダ合宿、独自の世界観に挑戦

　デュブレイユ氏は元アイスダンス選手で、北京五輪金メダルのガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組（フランス）をはじめ、多くのアイスダンスカップルを指導している。北京五輪では男子金メダルのネーサン・チェン（米国）のフリー「ロケットマン」の振り付けも担当した。

　坂本によると、「アイスダンスとプログラムがごちゃごちゃになっちゃうから、シングルの選手（の振り付け）はワンシーズンに１人だけ」だそう。今回は、４年後のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向けて新境地に挑む世界女王のオファーに応じた。

　６月上旬にカナダへ渡り、複数の候補から「『あれどう？これどう？』と話し合って、２人とも『いいな』と思うのが決まった」と坂本。エモーショナルな歌声や独自の世界観が印象的なシーアのヒット曲を選曲した。

　そこからの流れもユニークだ。まず坂本がデュブレイユ氏の前でスケーティングを見せ、「何の動きができて何ができないのかを決めていった」。続いて男性コーチが振り付けたダンスパートを陸上で練習し、デュブレイユ氏の振り付けに組み込んでいったという。「氷と陸の融合というか、並行してやっていくのが面白かった」

　ＳＰは、独創的な振り付けで知られる米国出身のロヒーン・ワード氏（３８）から初めて指導を受けた。曲はジャネット・ジャクソンの「ロック・ウィズ・ユー」と「フィードバック」。クールでダンサブルな曲調は、フリーとともにこれまで演じてきたプログラムとは雰囲気が大きく異なる。「今まではジャンプを生かすための振り付けのような感じだったけど、今回はジャンプもありつつ他の部分も見せる。そんなシーズンになると思う。それがどう点数に現れるかが、不安だけど楽しみ」

　■ルール変更に戸惑いも

　点数に関しては、大幅なルール改正への対応力も問われる。表現面を示す演技構成点の項目が５から３に減り、「技と技のつなぎ（トランジション）」と「曲の解釈」がなくなった。

　「ルールのことは諦めかけてます。理解できてないし、やってみないと分からない。選手同士でも話題になるけど、みんなほとんどお手上げ状態」と苦笑いを浮かべる。

　スピンのレベル要件にも「スピンからの難しい出方」などが加わったが、「その『難しい』の基準が分からない。ＳＰとフリーのスピン六つのうち四つを変えないといけない状態になっちゃって。ただでさえできるスピン少ないねんけど…」とぼやき節だ。

　■男子ホープのチーム加入、刺激に

　先日、世界ジュニア選手権男子３位の壷井達也（１９）がシスメックスと所属契約を結び、チームメートになった。これまでは四大陸選手権女王の三原舞依（２２）＝甲南大大学院＝との２人で、「『ようこそ』って感じ。めっちゃうれしい」。

　愛知県出身の壷井が神戸大に進学した昨春から中野園子コーチらの指導を一緒に受けており、「今までトリプルアクセル（３回転半ジャンプ）以上を跳ぶ選手がうちにはいなかった。初めてばんばんアクセルも４回転も跳ぶ人が来たので一気に雰囲気も変わったし、新しい風が吹いてきた。（自分が）引っ張ることは何もない。『頑張れ』と言うだけ（笑）」と頼もしい後輩を温かく見守る。

　「ザ・アイス」は７月３０、３１日に丸善インテックアリーナ大阪（大阪市）で大阪公演が行われ、男子のネーサン・チェンや宇野昌磨（トヨタ自動車）、女子の三原舞依、世界選手権ペア銀メダルの三浦璃来（木下グループ、宝塚市出身）木原龍一（木下グループ）組らが出演する。

　「ショートとフリーの両方を披露するので、間に合うかどうか分かんないけど、今ゴリゴリに練習してます」。世界女王として迎えるシーズンに向け、新機軸を打ち出すプログラムがベールを脱ぐ。（山本哲志）