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日韓の旗を掲げた道場。稽古では年齢や性別を問わず対戦する=神戸市兵庫区中道通6
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日韓の旗を掲げた道場。稽古では年齢や性別を問わず対戦する=神戸市兵庫区中道通6
ミット蹴りに励む加藤貴士さん。足は高さ2メートルまで上がる=神戸市兵庫区中道通6
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ミット蹴りに励む加藤貴士さん。足は高さ2メートルまで上がる=神戸市兵庫区中道通6
3兄妹の野谷昊雅さん(後列右から2人目)、芽愛さん(同3人目)、絆心君(前列中央)ら全国大会のメダリスト7選手=神戸市兵庫区中道通6
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3兄妹の野谷昊雅さん(後列右から2人目)、芽愛さん(同3人目)、絆心君(前列中央)ら全国大会のメダリスト7選手=神戸市兵庫区中道通6
稽古の最後に柔軟運動。脚は驚くほど柔らかい=神戸市兵庫区中道通6
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稽古の最後に柔軟運動。脚は驚くほど柔らかい=神戸市兵庫区中道通6
道場を率いる鶴岡さん(左)と金さん=神戸市兵庫区中道通6
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道場を率いる鶴岡さん(左)と金さん=神戸市兵庫区中道通6

 神戸市兵庫区の静かな住宅街に、「神戸道場」と書かれた看板が溶け込んでいた。扉を開ける。ふわっと汗のにおいが漂う。今年、格闘技テコンドーの全国大会で、この道場から出場した小中学生7人全員がメダルを獲得した。まだ開設から4年。どんな環境で強さは育まれているのか。強豪と言わしめる秘密に迫った。(伊藤颯真)

■上がらない足を上げる

 テコンドーは、韓国の国技で、五輪競技の一つ。足技で戦う点が特徴で、「足のボクシング」とも呼ばれる。神戸道場の壁に、日本と韓国の国旗が並ぶ。

 道場の選手コースには小学3年から大学2年までの10人が在籍する。ある日の夕方、選手が次々と稽古をしにやって来た。入り口で腰を曲げて一礼。雑談しながらストレッチを始めた。

 そこへ師範の金大●(キムデヨン)さん(30)が現れた。道場に緊張感が走った。ランニングの後、足を振り上げるアップ。間髪入れずにミット蹴り。前蹴り、回し蹴り、かかと落とし、後ろ回し蹴り…。「はーい!」「あー!」。声に気迫がこもる。

 しばらくすると、みんなの表情がゆがんだ。足が上がらないのだ。さあ本番だと言わんばかりに、金さんの声が響いた。「もう1回!」

 さらに、実践形式の組み手、課題のおさらい、ストレッチ。約2時間の稽古が終わると、外はすっかり暗くなっていた。

■3兄妹での快挙

 7人がメダルを取ったのは今夏、さいたま市で開かれた格闘技テコンドーのJOCジュニアオリンピックカップ全日本選手権大会。その中にそろって金メダルに輝いた3兄妹がいた。

 兵庫中1年の野谷昊雅(こうが)さん(13)、水木小5年の芽愛(めあ)さん(11)、同3年の絆心(きしん)君(8)。テコンドーの魅力について「ほとんど足だけで戦うところが面白い」と口をそろえる。

 昊雅さんは「スイミング以外の習い事をしたい」と小学1年の時、テコンドーを始めた。これまで練習や試合で数え切れないほど泣いた。「続けてこられたのはできないことができるようになるのが楽しいから」と力を込める。

 芽愛さんと絆心君も兄に続いた。「怖さより、かっこよさの方が強い」と2人はのめり込む理由を語る。

 的確に相手に蹴りを当てるにはどうすればいいかなどを教え合ってきた3人。そんな絆が今回の快挙をたぐり寄せた。「目標は世界大会」と先を見据える。

■逆境を越えて

 館長の鶴岡青(じょう)さん(26)は4年前、同じ同市兵庫区内にあった「本部道場」がなくなったことを知り、自ら道場を開いた。

 鶴岡さんは小学4年でテコンドーを習い始め、弟と2人で熱中。さらに力を入れようと考えていた大学時代、「横紋筋肉腫」というがんだと診断された。

 抗がん剤治療、放射線治療、大量化学療法と多くの治療を重ねて受けた。「でも、がんの治療よりテコンドーの練習の方が厳しかった」と振り返る。

 一方で闘病中、テコンドー一筋の人生を見つめ直した。「完治したらテコンドーから離れよう」と決め、2018年8月、父親が営む不動産会社に入った。

 仕事に専念し始めた同10月、自らも通った本部道場がなくなったと耳にした。

 弟たちがテコンドーをする環境がなくなる、と同12月、神戸道場を開いた。「テコンドーから離れられない宿命かも。なら、とことんやってやろうと思った」という。

 道場に通う子たちの笑顔を見ると「開いてよかった」と感じる。「この道場を児童館みたいな場所にし、こんな楽しいスポーツがあるんだよと知ってもらいたい」と夢を膨らませる。

 師範の金さんは韓国で小学生から大学生までテコンドーを続けた。国内で活躍したが、実業団入りに向けた大会を前に右肩を負傷。競技を諦めた。

 海外を旅したり軍隊に入ったりした後、先輩の紹介で日本へ渡ってテコンドーを教えることになった。それが本部道場だったが、3カ月でなくなり、帰国も考えた。鶴岡さんに神戸道場に誘われ、日本に残った。

 この4年で日本代表を4人育てた。今年4月には五輪日本代表の専任コーチに選ばれた。今の目標は、神戸道場を有名にすること。「歴史を刻んでいきたい」と力を込めた。

【編注】●は「さんずい」に「英」

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