競技中のアスリートが性的な意図を持って撮影される問題で、プロ、アマを問わずスポーツ界で対策が強化されている。昨年の東京五輪で関心が高まり、今年１０月には、日本バレーボールリーグ機構（Ｖリーグ機構）が、選手の盗撮や悪質な投稿を許さないと訴える動画を公開。ただ、写真撮影は観戦の楽しみの一つで全面的な制限は難しく、交流サイト（ＳＮＳ）への画像投稿はチームや競技の人気を高めてもくれる。選手の保護も、ファンの獲得もー。競技団体やチームは対応に苦心している。

■応援の意図なし

　兵庫県姫路市を拠点に活動する同リーグ１部女子「ヴィクトリーナ姫路」。今秋に始まった新リーグでは、これまで試合直前にコート内でストレッチなどのウオーミングアップをしていた選手の姿が見られなくなった。過去にＳＮＳで、選手のストレッチ風景を映し続けた動画が投稿されたことが原因という。

　「明らかに選手を応援する意図でなかった」と広報担当者。今後、選手はファンからは見えない場所でストレッチを行う。しかし、悪質な撮影をするのはごく一部のファンのみで、会場内での撮影自体の制限は予定していないという。

■ルールを緩和

　一方で、撮影行為のルールを緩和する動きもある。女子サッカーなでしこリーグ１部で同じく姫路を拠点とする「ＡＳハリマアルビオン」。ホームゲームでスタンドに詰めかけたサポーターには、カメラを構えて選手の気迫あふれるプレーを撮影する人の姿があった。

　実は、なでしこリーグは２０１２年から、ホームページで望遠レンズを使用した撮影や写真・動画のインターネットへの投稿などを禁止していた。女性を被写体とする画像を念頭に、「興味本位で撮影された写真を公開された経緯がある」と説明した。

　しかし、今年５月、リーグの知名度向上などを目的に、写真や動画の投稿を原則認めると方針を転換した。その背景には、ファンがＳＮＳなどに投稿し、チームや選手の情報を拡散してもらいたいという狙いがある。今や、ＳＮＳに写真や動画は欠かせない。

　ＡＳハリマの岸田直美社長は「積極的に情報発信をしないと、競技や選手の魅力が伝わらず、会場に足を運んでもらえない」と話す。チームはこれまで、写真集のようなイヤーブック「蹴女図鑑」を発行するなど、ユニークな形で選手をＰＲしてきた。「女子サッカーはまだまだマイナーで、周知の方法を工夫しないといけない。ファンと一緒に盛り上げられるという点で、ＳＮＳの効果は大きいと思う」。１０年ぶりのルール変更に、関係者は期待を寄せている。

■刑事事件の立件も

　アスリートの性的画像を巡る問題は、東京五輪を翌年に控えた２０年、陸上女子選手が日本陸上競技連盟のアスリート委員会に被害を相談して表面化。それを受けて、日本オリンピック委員会（ＪＯＣ）などスポーツ７団体が盗撮や写真・動画の悪用を「卑劣な行為」として被害撲滅を訴える共同声明を出した。

　東京五輪では、体操女子ドイツ代表が、レオタードではなく足首までを覆うボディースーツ「ユニタード」を着用。体の露出を極力減らして競技に臨み、深刻化する問題と被害が改めて注目を集めた。

　警察も、画像の無断転載や販売などで、著作権法違反容疑や名誉毀損容疑などで事件化をしている。

■コロナ収束、被害増加も

　集客による事業収入が不可欠なプロに対して、学生スポーツなどアマチュアは事情が異なる。

　大阪陸上競技協会（大阪市東住吉区）は主催大会で、学校やクラブ関係者、選手の保護者を対象に撮影許可証を発行し、許可証を持たない人の撮影を禁じている。同時に、看板や電光掲示板などで不審な人物を見かけた場合、協会へ通報するよう注意喚起している。

　それでも偽名やうその身分で撮影許可証が申請されたケースがあったといい、同協会の担当者は「悲しい話だが、今後は身分証明書の提示なども求める必要が出てくる」とさらなるルールの厳格化も視野に入れる。

　また、新型コロナウイルス感染症の拡大以降は「プロ、アマを問わず、観客の入場制限などで（性的画像の）被害は一時的に落ち着いていた」とも指摘。コロナ感染の収束とともに入場制限も緩やかになると、「再び被害が拡大する可能性がある」として危機感を強めている。