キックボクシングで活躍した人気格闘家、那須川天心（帝拳）がボクシングに転身し、４月８日に東京・有明アリーナでデビュー戦に臨む。その相手に決まったのが真正ジム（神戸市東灘区）の与那覇勇気だ。沖縄出身で、日本バンタム級４位の３２歳。一体、どんな人物なのか。

　２月１３日の対戦発表会見から数日後。真正ジムでトレーニングを終えた与那覇が、記者に呼びかけた。「格好良く撮ってくださいね。でも空を見上げたとき、わざわざ『青い』とは言わないか」

　どうやら「自分の格好良さは自明の理」と言いたいらしい。なお、特技は「男女問わずほれさせること」。与那覇の魅力の一つは、このビッグマウスだ。

　沖縄県の那覇市に生まれた。小学４年で南城市に移り住み、格闘技好きの父の影響で佐敷中３年まで空手や柔道で鍛錬。沖縄尚学高に進学し、ボクシング部に入った。

　当時の監督は金城真吉さん（故人）。世界王座１３連続防衛の具志堅用高さんらを育て、ボクシング王国・沖縄の礎を築いた名伯楽だ。「僕は破天荒なスタイル。でもそれは、金城監督から教わった基礎があってこそ生きる」と感謝を口にする。

　練習では少しでもガードが下がると叱られた。ワンツーは真っすぐ打つよう、口酸っぱく言われた。「僕だけめっちゃ怒鳴られて。調子に乗る性格を読まれていたのかもしれない」と振り返る。

　試合に勝つと「おまえが強いんじゃなく、相手が弱い」とくぎを刺された。逆に、負けると「相手が強いんじゃない。お前が弱いんだ」。

　これは「魔法の言葉」として、プロ転向後も与那覇のエンジンになっている。白星を挙げたときも「上のレベルにいけばこのパンチは当たらないな」など、おごらず自らを客観視できる。

　高校ではもう一つの出会いがあった。現在、プロ野球のソフトバンクで活躍する東浜巨（なお）投手だ。３年間を同じクラスで過ごし、常に刺激を受ける存在だった。野球部が選抜大会で優勝した２００８年春、与那覇も全国選抜大会で頂点に立っている。

　昨年には無安打無得点試合を達成し、１０勝を挙げた東浜。今回、大きなチャンスを手にした元級友にインスタグラムでエールを送った。投稿が２４時間後に消える「ストーリー」で対戦に触れ、「これは見ないと！」と書き込むと、与那覇も「なおありがとう！　お互いスポーツ界のスターになろう！」と返した。

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　高校卒業後も恩師と友人の存在を励みに腕を磨き、東洋大を経てプロデビュー。その後３年間は試合から離れ、トレーナーを務めていたが、１９年に復帰した。

　通算成績は１７戦１２勝（８ＫＯ）４敗１分け。金城さん仕込みの防御や前進を軸にパンチ力も備えた３２歳に今回、挑戦状が舞い込んだ。真正ジムの山下正人会長から相手の名前を耳にして即、受諾した。「漫画化してほしいほどの闘い」と興奮を隠さない。

　自身の主戦場より１階級上となるスーパーバンタム級で、６回戦に挑む。相手がキックボクシング界で人気と実力を誇った「神童」であっても、威勢の良い口ぶりはいつも通りだ。

　「僕はめっちゃいい敵役。那須川選手には『負けてはい上がる主人公』になってもらう。神経を遮断するようなパンチで、大の字にさせますよ」