岸田文雄首相は、今の保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードを使ったマイナ保険証に一本化する方針を改めて表明した。
首相は、廃止後も最長1年間の猶予期間を設け、マイナ保険証を利用しない人に代わりの「資格確認書」を発行することで、国民の理解は得られると判断したという。
しかし国民の不安払拭には程遠いのが現実だ。直近の共同通信社の世論調査では、マイナ保険証への一本化方針について「撤回するべきだ」が41・7%と最多で、「延期するべきだ」が31・4%と続いた。「廃止ありき」の姿勢で見切り発車すれば、混乱を深めかねない。政府は現行の保険証廃止を再考すべきだ。
マイナンバーを巡っては、公金受取口座などで誤登録が相次いだ事態を受け、政府が自治体などに「総点検」を求めていた。
個別データの精査対象約8208万件のうち、他人のマイナンバーをひも付ける誤登録があったのは0・01%の計8351件だった。先行実施分などを含めると1万5907件に上る。健康保険証のひも付け誤りは計8695件、障害者手帳では5645件のミスが判明した。
河野太郎デジタル相は「極めて少なかった」と会見で胸を張ったが、点検対象は専用サイト「マイナポータル」で閲覧できる情報のみだ。国税関連など他の誤登録などは調べておらず正確な実態と言い難い。「日本はゼロリスク神話があったが、そうはならないと認識してもらいたい」と述べたのは開き直りにも聞こえる。強引な普及策が混乱と不信を招いた点を反省せねばならない。
マイナ保険証の登録は7100万枚を超えたが、不信感はむしろ強まっており、利用率は4・49%(10月)と6カ月連続で低下している。取得時に最大2万円分がもらえる「マイナポイント」目当てに登録をしたまま、従来の保険証を窓口で使い続けている人が多いとみられる。
病歴などの医療データは最も繊細な個人情報である。誤った情報による医療の提供は命や健康に関わりかねない。今後も行政による手入力は残り、ミスをゼロにするのは容易ではない。政府はトラブルの防止に一層努める必要がある。
一方、全国保険医団体連合会の調査では、システムの不具合などで患者が「無保険扱い」となり、医療費の10割を請求された事例が10月以降、40医療機関で計86件あった。原因究明と再発防止策が欠かせない。
そもそもマイナカードの取得は任意のはずだ。国民の理解や納得なしに利用は進まない。政府は保険証廃止に固執せず、マイナンバーの信頼回復にこそ力を注がねばならない。
























