きょうの「みどりの日」は、1989(平成元)年の祝日法改正で設けられた。「自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ」日だ。四季のある日本は多様な自然環境に恵まれている。だが、科学と経済の発展により、地球規模の環境問題にも直面している。
とりわけ深刻なものの一つが、目に見えない化学物質による汚染である。化学工業は18世紀に始まり、19~20世紀に飛躍的に発展した。プラスチックや農薬、洗剤などが生活を便利にすると同時に、毒性のある物質も見つかり、生態系などへの悪影響が懸念されるようになった。
その中でも近年、有害性が各国でクローズアップされている有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))の問題を中心に考えてみよう。
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米環境保護局(EPA)は4月、飲み水に含まれるPFASの濃度基準を決めた。同物質のうち人体への影響が指摘されるPFOAとPFOSは、各1リットル当たり4ナノグラム(ナノは10億分の1)とした。これまでの勧告値(合計で70ナノグラム)と比べ、格段に厳しい規制となった。PFHxSなど他のPFASも規制する。
全米の公共水道は汚染の監視や公表を義務付けられる。目標値は「ゼロ」とした。わずかでも摂取しないのが望ましいという判断だ。各国も対応を進めており、ドイツは2028年に4種類のPFAS合計で1リットル当たり20ナノグラムの基準にする。
これに対し、日本にはPFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラムという暫定目標値しかない。政府は一刻も早く、国民の安全を最優先に科学的な基準を決めるべきだ。
広がるPFAS汚染
PFASは水や油をはじき、熱に強いなどの特質があり、戦後、生活用品をはじめ各分野で活用されてきた。ところが今世紀に入って米国で健康被害が発覚し、調査や研究が進んだ。世界保健機関(WHO)傘下の研究機関は昨年、PFOAを「発がん性がある」、PFOSを「可能性がある」物質に分類した。
PFOAとPFOSは日本各地で検出されている。環境省が3月に発表した22年度調査結果では、16都府県の111地点で暫定目標値を上回った。兵庫県内では明石川上流や各地の地下水で目標値を超えた。県は24年度に独自の調査地点を15から66に増やし、地下水の45地点も追加する。有識者会議を設け、事業者への指導も行う。こうした行政の取り組みはさらに進める必要がある。
ただ、PFASを巡る科学的知見や飲み水からの除去方法などを自治体単位で検討するには限界がある。3月の時点で、全国8都府県の計12県・市町村議会が、国の対策推進などを求める意見書を国会に提出している。政府の対応が後手に回っている証左と言わざるを得ない。
踏み込んだ防止策を
有害化学物質には、有機水銀やカドミウムなどの重金属、残留性有機汚染物質(POPs)、環境ホルモンなどがある。有機水銀は水俣病、カドミウムはイタイイタイ病を起こした。PFOAやカネミ油症の原因となったポリ塩化ビフェニール(PCB)はPOPsに含まれる。
PFOAなどは、POPsに関するストックホルム条約で既に製造や使用が規制された。しかし環境中に放出されたものは分解されず、残留性が高いため「永遠の化学物質」と呼ばれる。いったん土壌に入れば河川や地下水を汚染し続ける。
PCBはカネミ油症問題を機に1972年に製造中止となった。製造していた鐘淵化学工業(現カネカ)がある高砂市では、PCBで汚染された港の海底土砂を浚渫(しゅんせつ)し、70年代に汚泥の盛り立て地が造られた。災害対策などは施されているものの、恒久的な維持管理が強いられる。
これらの有害化学物質は現代社会の「負の遺産」と言える。水俣病などの公害病では、政府や自治体の対応の鈍さが患者拡大につながった。新たな健康被害を出さないために、PFASなどの問題では踏み込んだ防止策が求められる。