30年前の阪神・淡路大震災は「災害弱者」の存在を浮き彫りにした。高齢者や障害者らがすぐに避難できなかったり、避難所の劣悪な環境下で命を落としたりする例が相次ぎ、関連死は920人を超えた。

 その後の東日本大震災、熊本地震、能登半島地震、各地の台風や豪雨でも災害弱者の避難は課題となった。一人でも多くの命を守るための取り組みを強化せねばならない。

 政府は、災害時における高齢者や障害者への福祉支援の充実に向け、災害対策基本法や災害救助法の改正案を通常国会に提出した。

 現行法は、福祉や介護の専門家による「災害派遣福祉チーム(DWAT)」の活動範囲を避難所に限定している。改正案では範囲を広げ、自宅や車内で避難生活を送る人に対し、健康管理などの「福祉サービス」を充実させる規定を設ける。

 東日本では、在宅や車中泊での避難を余儀なくされた高齢者らへの支援が行き届かず、疲労やストレスなどによる関連死が約3800人を数えた。被災者に占める死亡・行方不明者の割合は、障害者が健常者の約2倍に上ったという。熊本、能登地震でも関連死が建物倒壊などによる直接死を超えた。

 一人一人が抱える困難を把握し、避難や生活再建を支える「災害ケースマネジメント」は仙台市が先駆的に実施し、能登地震などの被災地も取り組んでいる。

 災害対策基本法は、災害弱者の個々の事情を踏まえた「個別避難計画」の作成を自治体の努力義務としている。ただ、支援の担い手不足などから計画作成を終えた自治体はまだ少ない。改正案では、官民連携に向けたボランティア団体の登録制度創設なども盛り込まれた。専門性を持つ組織や企業などの協力も得て、福祉支援の体制強化が急がれる。

 避難所を巡っては食料やトイレ、入浴スペースなどの不備、要介護者や女性、乳幼児への配慮の欠如など、環境改善は遅々として進んでいない。石破茂首相は関連死ゼロを実現するため、人道の観点から最低限の設備を定めた国際基準「スフィア基準」を踏まえるとした。確実な実行を求めたい。

 課題の根本には、災害時の対応を自治体に委ねる災害関連法制の不備がある。被災した職員に過度な負担がかかり、人員やノウハウが乏しい自治体では対応しきれない。複数の市町村が連携して取り組んだり、都道府県が市町村を支援したりする仕組みを導入する必要がある。

 南海トラフ地震など大規模災害に備えるためにも、防災庁の設置と併せ、法制度や国と自治体との役割の在り方を抜本的に見直すべきだ。