大相撲の大関大の里=本名中村泰輝、石川県出身、二所ノ関部屋=が、夏場所で2場所連続4度目の優勝を果たし、横綱審議委員会が全会一致で横綱に推薦した。28日に昇進が正式に決定する。2023年夏場所に幕下10枚目格付け出しで初土俵を踏み、所要13場所での横綱昇進となる。年6場所制となった1958年以降初土俵の力士では最速だ。
同じ石川県出身の輪島の21場所を大幅に更新する驚くべきスピード出世は、ファンならずとも多くの人を歓喜させた。24歳の力士が成し遂げた快挙を心からたたえたい。
日本出身の新横綱は、大の里の師匠で、17年初場所後に昇進した稀勢の里(現二所ノ関親方)以来8年ぶりとなる。22場所続いていた一人横綱もようやく終わる。今年1月の初場所後に昇進したモンゴル出身の豊昇龍も、大の里と同世代の26歳だ。2人の若き横綱が開く角界の新時代に期待が高まる。
地元の石川県では昨年元日に能登半島地震が起き、多くの人が生活再建の途上にある。被災して内灘町の仮設住宅で暮らす大の里の祖父は「地震で苦しむ人に光を与えてくれた」と喜んだ。本人も「石川のことを思って頑張ってきた」と話す。まさに被災地を励ます昇進となった。
相撲が盛んな同県の津幡町で生まれ、強豪の新潟県立海洋高校(糸魚川市)から日本体育大に進んだ。大学時代は学生横綱、2年連続のアマチュア横綱を獲得し、二所ノ関部屋に入門した。24年初場所の新入幕後は一度も負け越していない。学生出身の横綱は輪島以来2人目だ。
身長192センチ、体重191キロと堂々たる体格に恵まれている。しかし親方の厳しい指導を受け止め、鍛錬を重ねた努力があったからこそ、角界の頂点をつかめたのだろう。
今場所の成績は14勝1敗で、土俵での強さは際立った。相手の突きや押しにも動じることがない。親方が理想とした「相手の攻めを受け止め、攻め返す」相撲を体現した。13日目での優勝決定は、15年初場所の白鵬(現宮城野親方)以来、日本出身の力士では1996年秋場所の貴乃花以来だ。綱とりに挑んだ力士では初で、こちらも偉業達成となった。
ただ、千秋楽では対戦した豊昇龍が横綱の意地と気迫を見せて上手ひねりで勝ち、全勝優勝を阻んだ。大の里は今場所について「達成感と充実感がある」と振り返りつつも、この1敗を悔しがり、豊昇龍を「越えなければならない壁」とした。
今後は2人の横綱が互いに賜杯を争い、名勝負を繰り広げてくれるに違いない。強いライバル同士が、土俵上で技と誇りをぶつけ合う姿を見るのが楽しみでならない。