政府は今年、中長期的なエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画を約3年ぶりに改定した。同時に新たな地球温暖化対策計画も決めた。原発を最大限活用する方針に回帰し二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル」と経済成長の両立を目指す。

 これまでのエネルギー基本計画には、11年の東京電力福島第1原発事故の反省から「可能な限り原発依存度を低減する」と明記してきた。新たな計画ではこれを削除し、原発建て替えの要件を緩和した。23年度の発電量全体に占める割合が8・5%だった原発を40年度には2割程度にする。政策は大きく転換された。

 参院選は、その是非を問う初の国政選挙となる。発電時にCO2を出さないものの、重大事故の恐れがある原発に依存する社会でよいのか。原発に頼らないならば、気候危機を回避する「脱炭素」をどうやって進めるのか。各党は議論を深めなければならない。

 参院選の公約で、自民党は再稼働に加え、次世代型原発への建て替えを主張する。公明党は自民と連立を組みながらも「建て替えは廃炉が前提で、総数は増えない」とし、将来的に原発に依存しない社会を目指す。与党内に立場の違いが見える。

 日本維新の会や国民民主党、参政党も原発の最大限活用や次世代型の開発に積極的だ。これに対し共産党、れいわ新選組、社民党は「原発ゼロ」を掲げる。立憲民主党は「原発の新増設は認めない」とするが、党綱領にある「原発ゼロ」の表記は見送った。再稼働については、地元合意を前提に条件付きで容認する。

 原発を巡っては国民の不安が払拭されておらず、使用済み核燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分のめども立っていない。推進を主張する政党は、こうした問題や安全の確保にどう取り組むのか、詳しく説明するべきだ。

 一方、脱原発と脱炭素を両立させるとすれば、多くのCO2を出す石炭火力発電には頼れない。大量の電力を使うデータセンターや半導体工場の増設が見込まれる中、原発ゼロを訴える政党は実効性のある電力確保の手段を示す必要がある。

 エネルギー基本計画では、23年度に22・9%だった再生可能エネルギーを40年度に4~5割程度に引き上げるとした。太陽光や風力発電などの拡大については、与野党ともにおおおむね前向きの姿勢を見せる。ただし発電が自然条件に左右され、コストが高いなどの課題が残る。

 安心で環境負荷の少ないエネルギーを安定供給する。この難題解決に向けた各党の考えを見極めたい。