インターネットの交流サイト(SNS)が選挙への影響力を高めている。参院選でも政党や候補者が発信に注力するが、根拠があやふやな主張も見られる。有権者は真偽不明の情報に踊らされず、知る努力を重ね判断力を高めたい。

 ネットを使った選挙運動が解禁されて10年余りがたつ。若者を中心に政治への関心を高める人が増える利点がある半面、偽・誤情報や中傷が簡単に発信でき、一気に拡散するなどの弊害も指摘される。

 昨秋の兵庫県知事選では真偽不明の言説やデマが拡散され、投票行動に一定の影響を与えた。今回の参院選でも、一部政党が排外主義的な主張を掲げ、呼応するようにSNS上では「外国人の犯罪が増えている」など根拠が曖昧な投稿が広がる。分断や差別をあおるような行為は容認できない。誤った情報を基に投票する人が増えれば、選挙結果をゆがめる懸念がある。そうなれば民主主義の根幹が揺らぎかねない。

 SNSの構造を知っておくことも重要だ。検索や動画視聴をすると、関心がある情報を選別する手法「アルゴリズム」が働き、興味を持ちそうな情報ばかりが表示される「フィルターバブル」が起こる。同じ価値観だけに接して視野が狭くなる「エコーチェンバー」に陥りやすい。

 利用者が強く反応した情報を大量に拡散させるのもSNSの特性だ。閲覧数や再生回数を増やし収益拡大を図る「アテンションエコノミー」が浸透し、選挙期間中も商業目的の過激な投稿が増える。情報を流通させる運営事業者の責任は大きい。

 通常国会では規制策が検討されたが、憲法が保障する「表現の自由」との兼ね合いなどから法整備は見送られた。与野党が声明を出したものの、偽情報の拡散への改善努力を事業者に促すにとどまり、実効性に乏しいと言わざるを得ない。

 SNSは使い方次第ではポピュリズムに拍車をかける。参院選でも、印象的なフレーズを繰り返す短い動画やライブ配信が目立つ。政党や候補者は過度に依存せず、演説や有権者との対話を大切にしてほしい。

 健全な民主主義を支えるために、報道機関が果たす役割も大きい。正確で公正な選挙報道に徹するとともに、ネットで流布される情報の真偽を検証する「ファクトチェック」にも力を入れていかねばならない。

 有権者は、意図的に切り取られた言葉や映像をうのみにせず、異論にも目を向け、不確かな情報は拡散しない姿勢が求められる。新聞やテレビ、公式サイトなど複数の情報源に接し、公約や主張の妥当性や実現可能性などを冷静に見極めて一票を託す先を選びたい。