参院選は20日投開票され、自民、公明両党の与党が改選議席の過半数を下回るのは確実となった。先行きの見えない物価高やトランプ関税への対応、中途半端に終わった政治資金改革などが政権を直撃した。国民民主党や参政党が保守層や無党派層の受け皿となり、議席を大幅に増やした。立憲民主党は堅調だった。
「自公で過半数」という自ら設定した最低限の目標を達成できなければ、石破茂首相の責任論が強まるのは必至だ。衆参両院で少数与党となり政権運営はさらに厳しさを増す。政権の枠組みを巡って各党の駆け引きが激化するだろう。目先の「数合わせ」では、国民の信頼は遠ざかるばかりである。
山積する国内外の課題にどう対処するのか。与野党を問わず重い責任を負うことになる。異なる意見や利害を調整しながら幅広い合意に基づく政策本位の政治を構築せねばならない。
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消費税の減税・廃止か、給付金か。暮らしに物価高が影を落とす中、今回の参院選は「負担軽減」の訴えの大合唱となった。
昨秋の衆院選で自民、公明両党は過半数を割り込んだ。石破政権は野党の賛成なしには予算案も法案も通せない不安定な政策運営を余儀なくされてきた。与野党が政策ごとに協議を重ね、一致点を見いだしてきたのは一歩前進だ。ただ野党は個々の公約を実現させる手柄合戦に走り、与党も政権維持を優先した印象は否めない。
財政健全化や、人口減少社会での給付と負担の在り方を含む税と社会保障制度、激変が続く国際情勢を踏まえた外交・安全保障、エネルギー政策などの議論は十分に深まらなかった。
本来、中長期的な視点が求められる参院選の論戦が近視眼的となり、多くの党が有権者への「ばらまき」を競い合った。国民の間で広がる将来不安に応える処方箋を示そうとしない政治は、真の信頼を得られない。
選挙後の国会で、将来世代への責任を果たす議論に本気で取り組むことを各党に強く求める。
■将来不安に向き合え
外国人政策も激しい論戦となった。「在留外国人は優遇されている」などと事実に基づかない主張を掲げ、排外主義に結びつきかねない規制強化や権利の制約を訴える政党が勢いを増した。
少子高齢化が進む日本では、外国人労働者は経済社会の維持や成長に欠かせない存在だ。政治の無策を棚に上げ、物価高や格差拡大などで高まる国民の不満のはけ口を外国人へ向けさせて分断や対立をあおる事態を深く憂慮する。
政府は、選挙戦のさなかに外国人関連の施策を取りまとめる新組織の設置を打ち出した。「日本人ファースト」を掲げる参政に自民の岩盤支持層を切り崩される焦りが透けたが、結果的に差別や偏見を助長する懸念が拭えない。同じ社会の一員として外国人が安心して働き、暮らせる環境をつくることが、政治が果たすべき役割だと肝に銘じる必要がある。
新興勢力の伸長は物価高や賃金、雇用など身近な課題に十分に対応できない既存の政治に、有権者が「不信任」を突きつけた結果とも言える。「政治とカネ」を巡る問題を軽視し、抜本的な改革に取り組もうとしない自民党のみならず、主要な既成政党にも厳しい目が向けられた。
そうした中、インターネットの交流サイト(SNS)や動画を戦略的に活用して若年層らにアピールする政党が現れ、支持を集めた。こうした流れはより強まるのではないか。偽情報の発信や誹謗(ひぼう)中傷などSNSの規制強化を巡る議論も必要だが、政党への不信を招いた原因そのものに向き合うことを忘れてはならない。
価値観の多様化もあり、一つの政党が安定多数を維持し続けるのは難しくなると考えられる。
■超党派で課題解決を
少数与党と対峙(たいじ)する野党各党も政策の隔たりは大きい。与党が数を確保するために議席占有率の小さい政党にすり寄り、場当たり的な対応を繰り返す。それは民意に沿った政策と言えるのか。政党間協議の在り方やルール化も議論するべきだ。
物価上昇を上回る賃上げへの道筋を示し、政治とカネや選択的夫婦別姓制度などの積み残された課題の解決へ、党派を超えて踏み込んだ対応が求められる。
投票率は推計で50%台後半と前回選を上回った。昨秋の衆院選に続き、民意は与野党伯仲による立法府の復権を望んだ。選挙の後、政党や当選者が負託にどう応えようとするのか、点検を続けるのも有権者の役割である。