関西電力は美浜原発(福井県美浜町)の建て替え(リプレース)に向けて、地質調査などを実施する方針を表明した。2011年の東京電力福島第1原発の事故後、原発の活用は抑制され、これまで新たな原発建設の動きはなかった。新設が決まれば、日本の原子力事業にとって極めて大きな転換点となる。
関電の幹部が福井県庁と美浜町役場を訪れ、調査の意向を伝えた。方針を聞いた地元では不安と反発の声が出ている。新設計画を進めるには、地域住民の理解と同意が必要なのは言うまでもない。
原発の新設は国全体のエネルギー政策に深く関わる問題である。決定には、地元にとどまらず国民的な議論と合意が欠かせない。深刻な放射能汚染をもたらした福島の事故の教訓を踏まえれば、安易に新設を受け入れることはできない。
調査ではボーリングなどで地質や地盤の状態を検討する。福島の事故後に発足した原子力規制委員会は厳しい規制基準を定めている。規制委は昨年、日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県敦賀市)を巡り、活断層の存在を理由に再稼働を認めない判断をした。美浜原発に関しても厳格な調査と評価が求められる。
事故の反省から、政府は「可能な限り原発依存度を低減する」との方針を堅持してきた。ところが岸田政権は22年、脱炭素などを理由に原発の最大限活用に方針転換した。石破政権も今年、エネルギー基本計画の改定で建て替えの要件を緩和した。
関電は国内電力会社の中で最多の3原発7基を再稼働させ、三菱重工業などと次世代型の一つ「革新軽水炉」の開発を進めてきた。政府や電力各社は次世代型の安全性を強調する。しかし原発への国民の不安が払拭されているとは言い難い。
看過できないのは、使用済み核燃料を再処理し、再利用する核燃料サイクル政策が遅々として進まない点だ。福井県内の原発では使用済み燃料がたまり続けている。同県は県外搬出を求めているものの、青森県六ケ所村の再処理工場は完成延期を繰り返し、稼働時期が見通せない。
最後に残る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定も順調ではない。推進ありきでなく、こうした難題の解決を急ぐべきだ。
原発回帰の背景には、データセンターや半導体工場による消費電力の増加予測がある。ただ、現在の原発建設費は1基1兆円、完成までには約20年かかるとされる。巨額の投資に見合う事業か。再生可能エネルギーの拡大など他の方策はないのか。政府と関電は多くの疑問を置き去りにしたまま、強引に計画を進めるようなことがあってはならない。