1月に米トランプ政権が再発足して以来、日米間の最大の懸案だった関税交渉が合意に至った。
米国は当初、「相互関税」として日本製品に一律25%の関税を、自動車や主な自動車部品には現在2・5%の関税に25%の追加関税を課すと宣言した。日本は追加関税の撤廃を求めてきたが、閣僚協議の末、相互関税は15%、追加関税は12・5%に引き下げることで決着した。
対米黒字を抱える国では今のところ最も低い税率となり、石破茂首相は「大きな成果だ」と胸を張った。8月1日の交渉期限を目前に控えた合意を市場は好感し、株価は大幅に値上がりした。
しかし楽観は禁物だ。日米は正式な合意文書を交わしておらず、鉄鋼・アルミニウムの追加関税50%も積み残された。そもそも15%の関税は現行を大きく上回り、日本の実質国内総生産を0・55%引き下げると試算される。政府は合意内容の細部を詰めるとともに、産業や農業への悪影響を最小限に抑える必要がある。
日本政府による合意内容では、日本は無関税で輸入するミニマムアクセス(MA)米のうち米国産米の比率を高める。政府系金融機関による最大5500億ドル(約80兆円)の対米投融資の提供も可能にする。
年間77万トンのMA米の枠内で米国産を増やすため、首相は「農業を犠牲にする内容は(合意に)一切含まれていない」と強調するが、MA米の一部は外食業者などが購入している。日本のコメに似た中粒種の米国産が増えれば、国内産米の価格にも影響がないとは言い切れない。
問題は5500億ドルの投融資について、トランプ大統領が「日本が米国に投資し利益の90%を米国が受け取る」と発言している点だ。米政府も、トウモロコシや航空燃料など約1兆円分の米国製品に加え、米国製の航空機100機を日本が購入すると発表している。
日本政府はこうした具体的な内容に言及していない。事実なら、企業活動に介入するような条件と引き換えに関税に関する譲歩を引き出したことになる。交渉の結果を国民にきちんと説明するとともに、米国が合意を都合よく解釈して既成事実化をもくろんでいるのなら、厳しく反論しなければならない。
政治の停滞による諸課題への対応の遅れは許されない。石破政権は昨年秋の衆院選に続き、参院選でも大敗し、自民党の内外から退陣論が強まっている。首相は日米関税交渉を続投する理由の一つに挙げていた。今回の合意を受け、政局の混乱を収拾し物価高対策などを着実に進めるためにも、自らの出処進退を早急に決断するべきだ。

























