全ての働き手に適用される最低賃金の改定を巡る議論は、もつれた末に引き上げ幅、額ともに過去最高とすることで決着した。
中小や小規模の企業が賃上げしやすい環境整備など、政府は取り組みの実効性を高める必要がある。国の成長戦略も問われる。
厚生労働省の中央最低賃金審議会は、全国平均で現在は時給1055円の最低賃金を、2025年度に1118円とする目安を決めた。63円(6・0%)の引き上げで、目安通りであれば初めて全都道府県で時給が千円を超える。兵庫県は1115円となる。
今後、各都道府県の賃金審議会が目安を基に話し合う。新たな金額の適用は10月になりそうだ。
物価高騰で実質賃金は下がっている。最低賃金に近い時給で働く人も多く、労働者とその家族の生活水準を保つには、最低賃金の継続的な引き上げが欠かせない。中央最低賃金審議会でも、労使の認識はその点では一致していた。
しかし、金額についての隔たりは大きい。労働者側は、コメをはじめ食料品や生活必需品の物価上昇が暮らしを圧迫している状況を踏まえ、大幅な引き上げを求めた。
一方、経営者側は経営体力に見合わない賃金アップを強いられれば立ちゆかなくなる企業が出てくる-などと反論した。トランプ関税により先行きの不透明感が高まっていることも不安材料に挙げた。
例年以上に議論が長引いた背景には、「政治介入」と言える動きがあったようだ。
政府は「20年代に全国平均1500円」の目標を掲げる。実現には毎年7%台のアップが必要となる。引き上げ幅を政府の目標に近づけるよう、経営者側に繰り返し働きかけたとされる。石破政権の浮揚を狙ったのだろうが、過度な要求は労使と有識者の3者による審議会の決定プロセスを形骸化しかねない。
国が尽力すべきは、中小企業が原材料費や人件費の増加分を適切に価格転嫁できる環境づくりや、「下請けいじめ」などの監視強化である。生産性向上のための既存の支援策についても、企業の自主的な意欲を損なっていないか点検してほしい。
最低賃金の引き上げで年収が増え、社会保険料がかかり始める「106万円の壁」を超えるケースも出てこよう。パート労働者らが勤務時間を抑え、人手不足に拍車がかからないか懸念される。
現在、時給の地域差は最大で200円を超える。地方の審議会では、地域の特性に配慮しつつ、他の都道府県との格差是正に向けた議論を期待したい。