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 何の落ち度もないのに見知らぬ男に後をつけ回され、オートロックがあるマンションのエレベーター内で刺殺される。どれほど怖く、無念だっただろう。被害者の女性の胸中を思うと胸が張り裂けそうだ。

 神戸市中央区のマンションで8月20日夜、住人の会社員片山恵さん(24)が刺殺され、2日後に殺人容疑で会社員谷本将志容疑者(35)が東京都内で逮捕された。兵庫県警葺合署捜査本部の調べで、事件の特異な状況が浮かんできた。動機や背景を徹底的に洗い出し、再発防止に生かさなければならない。

 谷本容疑者は調べに対し「路上で被害者を見つけ、好みのタイプだったので後をつけた」との趣旨の供述をしているという。周辺の防犯カメラ映像の解析によると、当日は職場から帰宅する片山さんを50分近く尾行していたとされる。

 片山さんの自宅マンションには、解錠された玄関をすり抜ける「共連れ」という方法で侵入し、エレベーターで2人きりになった後、短時間で襲ったとされる。直前のやりとりなど詳しい経緯の解明が待たれる。

 谷本容疑者は3年前、神戸市中央区の別の女性につきまとい、室内に押し入って首を絞めたなどとして傷害罪などで有罪判決を受けた。20年11月にも同区で、帰宅する別の20代女性につきまとったとして県迷惑防止条例違反容疑で逮捕されている。

 犯罪歴のある人物を社会から排除するような主張には同意できないが、過去に類似事件を繰り返した点は見過ごせない。3年前の事件の判決は「思考のゆがみは顕著」「再犯が強く危惧されると言わざるを得ない」と指摘したが、「反省の態度を示している」などとして5年の執行猶予を付けた。

 今年6月施行の改正刑法は、刑罰の目的を懲らしめから立ち直りに大きく転換させた。刑務所などは受刑者の特性に合わせた支援プログラムを充実させている。罪を犯した人の更生を主眼に、再犯を防ぐ処遇の在り方を追求すべきだ。

 各人が身を守る工夫も欠かせない。オートロックを過信せず、周囲に不審な人がいないか注意したい。後ろの人に気付いたら、その人に解錠させるのも一法だ。

 エレベーターではなるべく2人きりになるのを避けたい。お互いに不安や不信を抱かせないよう、先を譲る心配りも欠かせない。

 神戸市は事件を受け、中心部などに増設予定の防犯カメラを100台追加する方針を決めた。今回は、県警に提供されたカメラの映像が容疑者特定につながった一方、犯行は抑止できなかった。過剰な監視にならないよう慎重な姿勢も求められる。