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 過去のストーカー事件で被害者を守れなかった痛恨の教訓は風化したのか。警察は二度と同じ過ちを犯さないために、被害者の安全最優先の原則を胸に刻まねばならない。

 元交際相手からのストーカー被害を訴えた川崎市の岡崎彩咲陽(あさひ)さん(20)が殺害された事件を巡る対応について、神奈川県警は内部検証結果を公表した。付きまといの相談や犯罪被害を示す情報がある中、危険性や切迫性を過小評価し、安全確保措置や必要な捜査態勢を取らなかったと認定して計43人を処分した。

 警察は1999年に埼玉県桶川市で起きたストーカー殺人事件や再発防止のため施行されたストーカー規制法を踏まえ、被害対応の体制を整備してきた。しかし、機能不全や形骸化は深刻だと言わざるを得ない。

 神奈川県警川崎臨港署は昨年6月、元交際相手の白井秀征被告(28)からのドメスティック・バイオレンス(DV)として対応を始め、同9月に暴行容疑の被害届を受理した。しかし岡崎さんが訴えを取り下げ、復縁を申し出たとして県警本部の指導を受けないまま対応を終了した。

 最大の問題はその後の対応だ。

 岡崎さんは計9回にわたって付きまといなどの被害を川崎臨港署に訴えたが、署はストーカー行為との認識を持たず、記録すら不十分だった。検証結果の「ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令を出すなど、安全確保策を取れた可能性があった」との指摘は極めて重い。

 DVから発展したストーカー被害は別れと復縁を繰り返しながらエスカレートする恐れがある。知識や経験に基づく対応が必要だが、部署間や県警本部との連携は皆無だった。

 岡崎さんが行方不明になった後の対応もずさん極まりなかった。親族から「家の窓ガラスが割られ、連れ去られたのではないか」との通報があった際、指紋採取や写真撮影などをしなかった。被害者側の強い要請でようやく捜査が本格化したが、遺体発見までに4カ月以上かかった。

 ストーカー対策のみならず、基本的な捜査すらおざなりになっていたことにがくぜんとする。

 再発防止に向け、神奈川県警はストーカー事件などの司令塔となるポストを新設し、迅速に情報を集約したり共有したりする仕組みを作る。だが、現場の意識が変わらなければ効果は薄い。兵庫県警をはじめ都道府県警は教訓を学ぶ取り組みを深めてほしい。

 より有効な対策には外部との連携も欠かせない。ストーカー被害を巡っては、行政や民間団体が被害者の保護や加害者の治療などを進めている。警察だけでなく、官民と協力して解決を図る姿勢が重要だ。