都道府県ごとの最低賃金の2025年度改定額が全て決まった。労使と学識者らでつくる各地の審議会が8月から協議していた。
時給の全国平均は66円増の1121円となり、全都道府県で初めて千円を超えた。兵庫県は64円増の1116円。全国、兵庫ともに引き上げ幅は過去最大である。
最低賃金に近い水準で働く人は約700万人に上る。規模の小さい事業所ほどそうした労働者の割合が高い。物価高が長引く中、最低賃金の大幅増は働き手の生活改善につながる。一方、体力の弱い事業所にとっては経営を圧迫する要因となる。
石破茂首相は「引き上げに対応する中小企業や小規模事業者を強力に後押しする」と述べた。政府は「ものづくり補助金」「IT導入補助金」といった生産性向上に対する助成拡充や、運転資金の低利融資などの支援メニューを発表した。
持続的な賃上げの実現には、施策の実効性が問われる。政府は20年代に全国平均1500円とする目標を掲げるが、税金を原資とした補助金頼みの賃上げ誘導策には限界がある。収益力強化に向けて主体的に取り組む企業の後押しにこそ、力を入れてほしい。中小企業がコストの増加分を適切に価格転嫁できる環境整備も欠かせない。
このたびの改定では異例の事態が起きている。
例年、都道府県の多くは10月から新たな最低賃金を適用する。ところが、今年は急激な人件費増に対応する経営側への配慮から適用時期を遅らせる自治体が相次ぐ。兵庫県は10月4日の適用だが、27府県は11月以降にずれ込み、そのうち福島や徳島など4県が来年1月、秋田と群馬は3月とさらに遅れる。
賃金体系の見直しに時間を要する企業があるのは理解できる。社会保険料負担を避ける「働き控え」の増加が予想されることから、年末などに人手不足に拍車がかかるのを避ける狙いもあるようだ。
しかし、労働者へのしわ寄せが大きい。適用が何カ月も遅れれば賃上げの効果は相当薄くなる。その間、地域間の賃金格差はさらに広がることになる。働き手が不公平感を抱くのは当然だ。政府には、審議会の開始時期を早め、企業の準備期間を確保するなどの改善を求めたい。
秋田県や茨城県などで知事が審議会に大幅な賃上げを要請する動きも目立った。労働者の県外流出に対する危機感からだろうが、経営側には「政治介入」への戸惑いが見られた。データに基づき落としどころを探る現行方式を含め、政治との距離など今後の最低賃金の決め方はどうあるべきかを議論する必要がある。