今年のノーベル生理学・医学賞は、過剰な免疫細胞の働きを抑える「制御性T細胞」を発見し、その働きを解明した坂口志文(しもん)・大阪大特任教授(74)ら3人に決まった。
スウェーデンのカロリンスカ研究所がきのう発表した。日本のノーベル賞受賞は2024年の日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に続き30人・団体となった。生理学・医学賞は18年の本庶佑(ほんじょたすく)さん以来、6人目となる。この分野での日本の先進性を改めて世界に示したといえる。心から祝意を表したい。
人間の体を守るはずの免疫細胞は過剰に働くと自分の体を攻撃し、関節リウマチなどの自己免疫疾患やアレルギーを起こすことがある。これに対し、制御性T細胞はそのような攻撃を抑える働きを持つ。
1995年、免疫の正常な機能に欠かせない制御性T細胞の存在を示す分子を特定した。2003年には、その細胞をつくるのに重要な遺伝子を発見した。
こうした業績が「免疫を抑制する仕組みを発見し、多くの病気に対する治療の道を開いた」(カロリンスカ研究所)と評価された。
坂口さんは大阪大で会見し「大変光栄に思う。この分野の研究がますます発展してほしい」と語った。
滋賀県長浜市で生まれた。少年時代は画家か彫刻家になりたいと思い、美術部の活動などに打ち込んでいたという。親戚に医師がいて親近感があり、京都大医学部に入学した。大学院に進学するが物足りなさを感じて1年半で中退し、愛知県がんセンター研究所に研究生として飛び込んだ。これが自己免疫疾患という生涯のテーマと出合う契機になる。
免疫システムの中に過剰な反応を抑える細胞も存在しているはずだ。そう仮説を立てて淡々と実験を積み重ねた。当時は異端扱いされたが、粘り強い取り組みがやがて実を結び始める。いつまでも衰えない研究への情熱はこの頃から培われていったのだろう。
研究費が得られない苦しい時代が長く続いたが、めげず腐らず信じる道を歩き続けた。自分では不遇とは思っていなかったという。研究者仲間でもある妻の教子さんが「慌てないし動じない性格」と分析するのもうなずける。
制御性T細胞の発見は、自己免疫疾患やアレルギーの治療に向けた研究に道を開いた。現在注目されているのが、がん治療などへの応用である。人類にとっての大きな成果へとつながることが期待される。
受賞は挑戦と地道な努力の大切さを教えてくれた。若手研究者はその姿勢を大いに参考にして後に続いてもらいたい。