あからさまな論功行賞、派閥政治の復活、裏金議員の登用。これで「自民党が変わった」と受け止める国民がいるだろうか。
党総裁選で勝利した高市早苗総裁の下、新執行部が発足した。その顔ぶれには、参院選大敗からの「解党的出直し」どころか古い自民党に逆戻りする懸念を抱かざるを得ない。
総裁選で高市氏を支援した麻生太郎元首相が副総裁に返り咲き、麻生氏の義弟である鈴木俊一前総務会長が幹事長に就いた。総務会長には、両氏と同じ麻生派の有村治子参院議員を起用した。裏金事件を機に各派閥が解散する中、唯一存続を決めた麻生派が要職の多くを占める。
総裁選の決選投票で高市氏支持に回った旧茂木派からも複数議員が執行部入りした。派閥政治の復権を見せつけるかのような人事である。
総裁選で敗れ、決選で高市氏に投じた小林鷹之元経済安全保障担当相は政調会長に、陣営幹部として高市氏を支えた古屋圭司元拉致問題担当相を選対委員長に起用した。
一方、総裁選で争った小泉進次郎農相、林芳正官房長官の要職登用はなかった。重鎮の力を頼り、自身を支持した議員を厚遇する。高市氏は「党内融和」を強調するが、明らかにバランスを欠いた人事で挙党態勢を築けるかは疑問である。閣僚人事でもこの流れが続くようなら、国民の信頼回復は遠のくばかりだ。
政治信条でも高市氏に近い、右派色が強い布陣でもある。参院選で新興政党に流れた「岩盤保守層」をつなぎとめる意図だろう。ただ、外国人政策や歴史認識などで過激な方向に傾けば、穏健な保守層が行き場を失う恐れがある。政策面のバランス感覚も忘れてはならない。
見過ごせないのは、萩生田光一元政調会長を幹事長代行に起用した人事である。萩生田氏は旧安倍派の裏金事件に絡み、政治資金収支報告書に多額の不記載があった。党の役職停止1年の処分を受け、今年8月に政策秘書(当時)が政治資金規正法違反罪で略式起訴された。党の再調査と本人による説明が必要だ。
高市氏は就任会見で、裏金問題は人事に影響しないとの見解を示した。だが国民の目は依然厳しく、認識が甘いのではないか。
その姿勢は公明党との連立協議にも影を落とす。公明は企業・団体献金の規制強化を求めたが、自民側には慎重論が根強く、合意に至っていない。長く続いた自公連立の歩みでも異例の事態である。
少数与党として野党との連携や連立拡大を進めるにも、政治資金問題は避けて通れない。高市氏は、党が参院選の敗因と総括した「不信の底流」を一掃する覚悟を示すべきだ。