熟議の姿勢を欠いた、あまりに乱暴な法案と言わざるを得ない。
自民党と日本維新の会は、衆院議員定数を削減する法案をきょうにも国会に提出する。具体的な削減内容は与野党で協議するが、1年以内に結論が出なければ自動的に定数を1割削減する条項を設けた。
相次ぐ政治家の不祥事や物価高による家計の厳しさなどから、定数削減には世論の一定の支持がある。しかし、国民の代表である国会議員をどんな方法で選び、何人いれば民意をより的確に反映できるのかは議会制民主主義の根幹に関わる。ただ減らせばいい、という問題ではない。
「自動削減条項」は、法施行から1年以内に与野党協議の結論が得られない場合、現行の定数465から小選挙区25、比例代表20の計45議席を自動的に減らす。議論する前からゴールを決めようとする規定に、野党が反発するのは当然だ。
共同通信が条項を基に試算したところ、小選挙区は兵庫(現行12)の1減を含め20都道府県が削減対象となり、比例代表も全国11ブロック全てで1~3減る。自民党内でも異論が相次いだが、維新との連立維持を優先する執行部が何とか党政治制度改革本部長への一任を取り付けた。
1割削減について高市早苗首相は国会で「納得感を得られる規模ではないか」と述べるにとどまった。削減幅について維新は当初「比例のみ50」と主張したが、「少数意見の切り捨て」との批判をかわすため小選挙区との組み合わせに転じた。いずれも根拠に乏しく、問答無用で突き進めば将来に禍根を残す。
少なくとも自動削減条項は撤回し、衆参両院の選挙制度の在り方を含め与野党で議論を深めるべきだ。
リクルート事件などの「政治とカネ」の問題を機に、衆院選に小選挙区比例代表並立制が導入されたのは1996年。当初500だった議員定数は、行政改革や「1票の格差」是正、消費税増税などに合わせて徐々に削られ、約30年で計35減った。
しかし議員が減っても、政治とカネの不祥事はなくならず、むしろ、人口減少が進む地方の声が国政に届きにくくなる、女性や若者ら新規参入のチャンスが狭まる、などの弊害が指摘されている。政治不信を解消するはずが、疲弊する地方を切り捨て、多様な民意が反映できなくなるようでは本末転倒である。
「身を切る改革」の実践には、政党助成金や議員歳費の減額など、より直接的で国民が納得できる方法はほかにもある。そもそも裏金事件の温床となった企業・団体献金の禁止や規制強化の議論を棚上げしたままでは改革の本気度が疑われる。与党は自戒する必要がある。

























