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 会社員や公務員らの健康保険証が有効期限を過ぎ、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行した。ただマイナ保険証の利用率は伸び悩んでおり、医療現場に混乱が広がらないよう柔軟な運用を求めたい。

 期限切れを迎えたのは、会社員と家族らが加入する健康保険組合や、公務員らが入る共済組合などの保険証で、対象者は計約7800万人に上る。厚生労働省は、移行後はマイナ保険証の利用を原則とした上で、これを持たない人は健保組合などが交付する「資格確認書」の利用を呼びかけている。

 移行時の混乱を避けるため、政府は来年3月末までの暫定措置として期限切れの保険証を持参しても医療費の10割負担は求めず、通常の1~3割の負担で保険診療を受けられるよう医療機関などに伝えた。自営業者らが入る国民健康保険と75歳以上の後期高齢者医療制度の保険証は既に7月末に期限が切れており、同様の措置が取られている。

 移行期の例外的措置だった資格確認書も、有効期限が当初の1年から最大5年に延長された。

 こうした泥縄式の対応が続くのは、マイナ保険証が政府の狙い通りに浸透しないからだ。登録率は今年10月時点でマイナカード保有者の約88%に達する一方、利用率は4割に満たない。過去に別人の情報がひも付けされるなどトラブルが相次いだことが影響しているとみられる。個人情報の漏えいへの懸念やシステムへの不安を感じる人は今も多い。

 そもそもマイナカードの取得は任意である。にもかかわらず、政府が2022年に保険証廃止の方針を唐突に打ち出し、マイナ保険証への一本化を拙速に進めようとしたことが問題の根本だ。国民の理解や納得が十分に得られず、医療現場に負担と混乱を生じさせてきた。

 マイナ保険証が医療情報のデジタル化に寄与する利点はあるだろう。患者の同意があれば、初めて受診する医療機関でも医師や薬剤師が病歴や投薬歴、特定健診の結果などを確認できる。入院や手術で医療費が限度額を超えた場合の手続きも不要だ。政府はより適切な医療を提供し、薬の過剰投与を防ぐなど医療費の削減効果も期待できると強調する。

 9月からはスマートフォンをマイナ保険証として使える「スマホ保険証」を導入したものの、利用できる医療機関はまだ一部に過ぎない。

 国民の不信感が払拭されないままでは移行は進まない。政府は普及ありきではなく、メリットを丁寧に説明する必要がある。誰もが安心して医療を受けられるよう、従来の保険証の併用を認めるなど利用者目線で制度を見直すべきだ。