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 トランプ米大統領の暴走に、司法がストップを命じた。三権分立が機能するのは民主主義国であれば当然だが、トランプ氏への支持を巡り、政治や世論の分断が深まる米国の現状を踏まえれば、安堵(あんど)する思いだ。

 米連邦最高裁は、国際緊急経済権限法に基づき米政府が昨年8月に発動した相互関税などに、違法判決を下した。同法は大統領に関税発動の権限を認めていないとの判断だ。関税を盾に、対米投資や米国製品の購入などの「ディール(取引)」を乱発してきたトランプ氏は、カードの一つを失ったことになる。

 相互関税が無効となった以上、過去の徴収分は返すのが筋だ。しかし米政府は明確な方針を示していない。企業が個別に米側と交渉したり提訴したりするのは現実的に難しく、日本政府が前面に立って働きかけねばならない。高市早苗首相が掲げる「強い日本外交」が試される。

 最高裁の判断が出てもトランプ氏は強硬姿勢を崩さない。相互関税は撤廃したが、今度は通商法122条を根拠に、全世界に10%の関税を課す布告に署名した。直後にはさらに15%に引き上げる考えを示した。

 相互関税を課した69の国・地域のうち、日本など半数以上は税率が15%だ。10%では負担が減り、米国の威信に関わると考えたのか。敗訴による焦りとともに、政策決定のずさんさも改めて浮き彫りになった。

 122条の発動は「巨額かつ深刻な国際収支の赤字」への対応が必要な場合に限られる。米国は国際収支の一部である貿易収支こそ赤字だが、法的措置が不可欠なほど「巨額かつ深刻」かについて、トランプ氏は十分に説明していない。

 高関税に伴う物価高でトランプ氏の支持率は低下傾向にある。11月の中間選挙を控え実績づくりに躍起になっており、25日の一般教書演説でも「関税政策を利用し、数千億ドル以上の利益を得た」と強弁した。122条の発動期間は最大150日で、この間に新たな関税の根拠を探すか、新法をつくる可能性も指摘される。世界経済にさらなる混乱を与えかねず、日本は各国と連携して自重を強く促すべきだ。

 相互関税の発動後、その回避や税率軽減に向け、多くの国が米国への巨額の投融資で合意した。日本は総額約84兆円規模となり、先日第1弾として決まったガス火力発電などの3事業でも5・5兆円に上る。

 しかし投資回収後の利益の9割を米側が得るなど、日本側の採算性に疑問が多い。トランプ氏の機嫌をうかがう「決着ありき」が交渉の内実ではなかったか。司法判断で交渉の前提が崩れた以上、国益に結びつくのか冷静に再考する必要がある。