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 かつて「播磨の暴れん坊」と呼ばれ、「山特(さんとく)」の愛称で親しまれてきた山陽特殊製鋼(姫路市)が2027年4月に親会社の日本製鉄に吸収合併され、解散することが決まった。創業時の「山陽製鋼所」から90年余り、激動の歴史を歩んできた同社の名が消え去ることに、地元では惜しむ声が広がっている。

 同社は1933年に創業し、戦後の高度経済成長期に急成長を遂げた。しかし過大な設備投資があだとなり、65年に当時で戦後最大となる負債を抱えて経営破綻した。山崎豊子さんの小説「華麗なる一族」のモデルとされるこの倒産は、日本経済全体に大きな衝撃を与えた。

 注目すべきは、ここからの復活劇にある。富士製鉄(現・日鉄)の支援を得て、労使や地域が一体となって再建に取り組み、80年に再上場を果たした。自動車部品などに使われる「軸受け鋼」で世界最高水準の品質を磨き上げ、国内トップシェアを誇るまでに成長した。

 今回の吸収合併は、鉄鋼業界を取り巻く環境の激変が背景にある。中国との価格競争や内需低迷が続く中、日鉄は再編を急いでいる。山特は昨年4月に日鉄の完全子会社となり、上場を廃止していた。今後は日鉄の特殊鋼事業と一体化し、グローバル展開や脱炭素化に向けた技術開発を加速させる。

 山特は日鉄の製造拠点「山陽地区」となる。日鉄は「大阪地区」の生産を山陽地区に集約し、近接する「広畑地区」とともに姫路をグループの一大拠点とする方針だ。

 工場が存続し雇用の維持が見込まれるのは地元にとって救いである。しかし意思決定の拠点が移り、地域に根ざした企業の顔が遠ざかる不安は拭えない。山特は自社系列の財団を通じた小学校への図書寄贈や、陸上部などのスポーツ活動で地域に大きく貢献してきた。こうした絆が絶えることのないよう、日鉄には十分な配慮を求めたい。

 企業としての「山特」の看板は下ろされる。だが、幾多の苦難を乗り越えて培われた技術力と現場の熱量は引き継がれる。今後も特殊鋼の拠点として姫路の地に根を張り、播磨の経済と雇用、文化を力強く支え続ける存在であってほしい。