容疑者の死亡により真相解明が困難になったのは残念でならない。
5月19日、たつの市新宮町の民家で母娘が刺殺されているのが見つかった事件で、娘への殺人容疑で公開手配されていた元隣人の大山賢二容疑者(42)が3日、市内の川で遺体で見つかった。5月20日ごろに死亡したとみられ、死因は不詳という。
母娘と大山容疑者にトラブルは確認されず、被害者宅の貴重品もそのままだった。母娘は首を中心に上半身を複数回刺され、強い殺意がうかがわれるという。悲惨な事件はなぜ起きたのか、兵庫県警は捜査を尽くし住民らの不安を解消してほしい。
県警の対応で見過ごせない点がある。犯行日とみられる5月13日の数日後、大山容疑者に接触した高砂署員が殺人への関与をほのめかされながら身柄確保につなげられなかった。詳細な検証を県警に求めたい。
5月16日深夜、高砂市内の路上で寝ていた大山容疑者が署員の職務質問を受けた際に「人を殺した」「たつの」などと話した。しかし相手や場所、日時などを語らず会話がかみ合わなかったため、署員は信ぴょう性が薄いと判断したという。
県警地域企画課は、事件の認知前で外見上の不審点がなかったことから「やむを得ない対応」としている。だが容疑者死亡の事実は重い。
警察官職務執行法は「犯罪を行ったと疑われる者」に職務質問できると規定し、自傷または他人に危害を加える恐れがある者は「保護しなければならない」と定める。
大山容疑者への対応について県警幹部は「話は要領を得なかったが、泥酔も錯乱もしていなかったため保護対象には当たらなかった」と説明する。署員が調べてもその時点では事件を確認できず、発覚した19日になって署は職務質問の件を県警本部に報告したという。
署員は事情聴取後、所持金が550円しかなかった大山容疑者をたつの市内のかつての実家に警察車両で送り届けた。この家は被害者宅の隣にあり、後日の家宅捜索で血の付いた衣服などが押収された。
実家周辺の確認を試みるなど、踏み込んだ対応をすれば異変に気付けた可能性があったのではないか。
当時の判断に署の幹部がどう関わったかも気がかりだ。殺人事件の可能性があるなら、県警本部の判断を仰ぐ対応も考えられた。
交流サイト(SNS)を悪用した特殊詐欺事件などが社会問題になり、全国の警察は捜査での情報技術の活用を目指す。一方で、捜査の成否は職務質問など人への対応力によるところが大きい。事件の経緯から貴重な教訓をくみ取り、今後の捜査に生かさなければならない。
























