北マンスリー
ハーブが咲き誇り、牛がのんびりと草をはむ。神戸市北区広陵町、小倉台の住宅街を抜けると「弓削牧場」(同区山田町下谷上)の木製の看板が見えた。牛乳もさることながら、ここでは、深いコクと独特の香りの「ナチュラルチーズ」が訪れた人をうならせるという。その話を聞きつけた食いしん坊の新人記者2人が、早速、牧場へ向かった。(千葉翔大、喜田美咲)
まずは製造の現場から。オーナーの弓削忠生さん(74)と和子さん(68)夫妻に依頼するも「熟成室はちょっと…」といきなりのだめ出しだ。それもそのはず、部屋の空気のバランスを保つことが、チーズの味を左右するといい、忠生さんは「徹底した衛生管理をしています。(私たちも)最も神経を使う場所です」と説明してくれた。長男の太郎さん(37)ら数人のスタッフしか入れないという。
現在は5種類のナチュラルチーズを週に3回(計600キロ)製造している。
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弓削さん夫妻がチーズ作りを始めたのは1983年。初代牧場長の父・吉道さんが亡くなり、生産調整で牛乳の価格が低下していた。「チーズ作りで生き残りを懸けた」と忠生さん。ただ、当時の日本では保存性に優れたプロセスチーズが主流で、「ナチュラルチーズを食べる文化はなく、手掛けていたのも国内で数カ所だった」と振り返る。
「多くの人にナチュラルチーズを味わってもらいたい」。弓削夫妻は87年、牧場内にチーズハウス「ヤルゴイ」を建設し、チーズの食べ方を提案する発信拠点に据えた。
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弓削さん自慢のチーズを口にする前に、「ナチュラルチーズとは…」から勉強しないと!
チーズは熟成方法や期間、原料乳、気候などの違いで風味はまったく異なる。
まず、温めた原料乳に乳酸菌、レンネット(凝乳酵素)の順に入れる。牛の腹部の温度(約38度)を保ちながら静かにかき混ぜると次第に固まってくる。水分が外に出ると白くて柔らかなチーズができる。これが「フレッシュチーズ」。モッツァレラもこの一種だ。種類によっては塩を加えるものもある。
さらに表面に白カビを吹き掛け、熟成させると「カマンベール」になる。
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知識を頭に刻み、木目が美しい山小屋風のレストランへ。淡いライトで照らされた店内には、約50席が完備される。カップルや家族連れ、六甲山を登るハイカーにも人気のスポットだ。
カマンベールチーズを使ったランチセットなど約20種類のメニューがあり、今回は、その中から「ミニカマンベールフォンデュ」「よくばりチーズプレート」「マルゲリータピザ」の3種類をいただいた。
「よくばり-」は5種のチーズの盛り合わせで、太郎さんの新作「フロマージュ・プチタロー」が新たに加わった。塩分がほどよく効き、ビールなどのお酒にはピッタリだ。「日本酒に合いそう!」と喜田記者の本音がポロリ。
ほかにも、和子さんイチオシの「ホエーシチュー」は、ここでしか味わえない逸品だ。コクがあって一度食べたら忘れられない。
ホエーは、チーズの製造過程で出る余分な液体で、今でこそ、その栄養価に注目が集まるが、昔は料理には使われていなかった。しかし、吉道さんは違った。生前、弓削さん夫妻にホエーを使った料理を作るようアドバイスしていたといい、和子さんは「先代が残した知恵」と目を細める。
「食は与えられるものではなく、アレンジや想像を重ねながら、おいしい食べ方、作り方を見つけ出すもの。(この牧場を)食や命について考えられる場所にしていきたい」。忠生さんは笑顔を見せた。
【弓削牧場】1943年、初代牧場長の弓削吉道さんが北区に「箕谷酪農場」を設立したことが始まり。現在は後を継いだ忠生さん、和子さん夫妻が牧場を切り盛りする。約9ヘクタールの敷地に50頭の牛がおり、自然な飼育法を追求した「24時間放牧」や「牧場ウェディング」など、先駆的な経営手腕が注目を浴びている。
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