足の写真や走り方の特徴などをスマートフォンで送ると、自分の足に合ったランニングシューズが出来上がる-。こんなプロジェクトに兵庫県内の産官学が取り組んでいる。あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」の技術を活用し、画像やセンサーなどで得られたデータを収集・解析して、個人のニーズに即した商品を作る実証実験だ。19日開催の第7回神戸マラソン(神戸新聞社など共催)に、試作のシューズを履いたランナーが出走し、耐久性などを検証する。(塩津あかね)
神戸大工学部4年の八木健人(けんと)さん(21)は当日に向けて、日々練習を欠かさない。実は左足の長さが右足よりも1センチほど大きく、陸上部に所属したが靴選びには苦労してきた。実証実験に協力して手にした靴は足にぴったりで、「良い結果を出したい」と意気込む。
実証実験が始まったのは2014年度。国の委託事業に採択され、神戸大、兵庫県立工業技術センター、住友ゴム工業、バンドー化学、アシックス、神戸工業試験場、産業技術総合研究所が参画する。
被験者の素足をスマホカメラで撮影し、ネット経由で送信した画像から立体画像を作成。さらにタイム向上や減量などの走る目的と、走り方の癖、好みの靴デザインをそれぞれ選択式で回答すると、これらのデータから個々に最適なランニングシューズが出来上がる。
すでに試作品が完成しており、19日の神戸マラソンで八木さんら4人が実際に走って、耐久性や靴底の摩耗などを確認する。今後、試作品に感圧センサーなどをつけて実走。靴底にかかる圧力の分布を解析し、疲れにくい形状の靴底を設計して完成品に仕上げる。
一連の工程でフル活用するのがIoTだ。このうち靴底は、ネットでつながった世界初というゴム用の3Dプリンターで製造。プリンターは受信した設計データをもとに、3種類のゴム材料を噴射して成形する。感圧センサーもネットでつながっており、リアルタイムで各種データを収集できる仕組み。目標の18年度末までに完成品を作り、IoTによる「オーダーメードシューズ」の商業生産を目指す考えだ。
実証実験を統括する神戸大の貝原俊也教授は「製造コストやプリンターの信頼性など課題はあるが、製品化までの方式は見えてきた」と話している。
■「IoT」で新サービス続々 家電操作に渋滞回避など
IoTは「インターネット・オブ・シングス」の略で、あらゆるモノがネットでつながった状態をいう。パソコンや携帯電話などの情報端末だけでなく、家電や自動車などもネットに接続。スマホでエアコンを遠隔操作したり、車両の位置情報から渋滞を避けるルートを案内したりするサービスが生まれている。
工場の生産設備をネット網で結び、稼働状況などをリアルタイムで把握することで、生産効率や品質を向上させる「スマート工場」も登場。IoTを活用したものづくりは、世界中がしのぎを削る分野だ。
典型例はドイツが主導する「インダストリー4・0」。個別企業の工場だけでなく、企業の枠を超えて国中の工場をネットワーク化しようという試みだ。米国や中国などでもスマート工場への取り組みが進む。
今回の実証実験を統括する神戸大の貝原俊也教授も「諸外国の仕組みに負けないスマート工場をつくりたい」と意気込む。消費者のニーズや好みを設計段階で把握。「製品を作っておしまいでなく、製品化の過程で、消費者が改善してほしい部分を反映させる『ユーザー参加型』の仕組み」という。
「消費者が本当にほしいものを作れるか」は世界中の製造業の一大テーマ。貝原教授は「作る側と使う側がともに価値をつくり上げるものづくりで、新たな技術革新を起こす」と力を込める。