「後ろから声かけられても聞こえません。 ゴメンね! 皆頑張ろう!」。19日開催の第7回神戸マラソン(神戸新聞社など共催)に向けて練習する大阪府高槻市の同市職員黒川大樹さん(28)の背中に“明示”されている。胸には「聴覚障害」の文字。音が聞こえないことを周辺のランナーらに知らせるため、自ら考案したウエアを着て、29回目のフルマラソンに臨む。(阪口真平)
黒川さんは2010年に初めてフルマラソンを完走し、これまでに28回完走した。ベストタイムは3時間7分26秒。100キロのウルトラマラソンを2回走破した経験もある。
補聴器を着ければ会話はできる。ただランニング中は、汗をかく上、風を切る音が耳障りで補聴器は着用しない。大会には雑音を遮断するためのイヤホンを着けて出場している。
ウエアを作るきっかけは、14年に出場した北海道マラソン。道幅が狭くなっていた33キロ地点で、後ろから追い抜こうとしてきたランナーが黒川さんの右肩にぶつかった。激しく転倒し、左膝から出血。なんとかゴールはしたが、なぜぶつかられたのかが分からずに腹が立った。
しばらく考えて思い至った状況はこうだ。後ろのランナーから「道を空けてほしい」と声を掛けられたにもかかわらず、自分はそのままだった。当然空くはずの進路に後ろのランナーが進み、ぶつかった-。周囲の人は見た目で聴覚障害者であると分からないのが原因と判断。ウエアで周辺のランナーに知らせる必要性を感じた。
参考にしたのは視覚障害者が着用する「視覚障害」と書かれたウエア。誰の目にも分かりやすい。背中にはけがの経験から、呼び掛けの言葉を書いた。
背中の言葉が思わぬ効果も生んだ。追い抜くランナーが手話で「頑張ろう」と応じてくれることがある。「大きな力になる」。楽しみも増えた。
周囲の足音が聞こえないため、急な進路変更や給水時の割り込みなどに遭うと肝を冷やす。「これらは全てのランナーにも通じるマナー。私をきっかけに少しずつ変わってくれればうれしい」。ウエアの普及と周知も目指し、自らが広告塔になって走る。