長田マンスリー
ポップな音楽が響く作業室には、パン生地をこねたり、ジャムを包んだりする障害者たちの真剣な姿があった。パンを製造・販売する共同作業所「くららべーかりー」(神戸市長田区三番町2)。代表の石倉泰三さん(66)がメンバーを見守る表情は、焼きたてのパンのようにふっくらやわらかい。(久保田麻依子)
「くらら」には、知的障害などのある20~70代の8人が登録。毎日数百個のパンを仕込んだり、販売したりしている。
脳に障害のある長女(42)を育てる中で、石倉さんには「障害のある人たちの居場所や働く場をつくりたい」との思いがあった。1994年4月、同区の旧山吉市場に念願の作業所を開設。当時は地域福祉や障害者支援が確立されておらず、先駆的な取り組みとして注目された。
ところが、メンバーが仕事に慣れてきたころ、阪神・淡路大震災が街を襲った。家族やメンバーは無事だったが、市場内の店舗は全て倒壊し、くららも半壊した。「明日の生活も再建も見通せず、ぼうぜんとするしかなかった」。石倉さんはそう振り返る。
そんな背中を押してくれたのが、メンバーの男の子だった。震災の約10日後、電車も復旧していない中で店を訪れ「はよパン焼こうや」。その一言に奮い立たされ、材料や機材をかき集めてパン作りを再開した。炊き出しの手助けに、と避難所に配った。取り組みは映画「男はつらいよ」シリーズの中で、被災した店のモデルにもなった。
また、震災の年の11月からは、生活用品や作業所の製品を販売するバザー「一七市」を毎月17日に開催。100回を区切りに終えようとしたが、「続けてほしい」という地域の声に後押しされて継続を決め、現在は“拡大版”と銘打って、毎年11月に開いている。
当初のくららは震災の区画整理の対象になり、98年に現在の場所に移転した。きょうも店先にはジャムパンやデニッシュなど20種類近くが並び、朝から準備に忙しい。地域のイベントで大口の注文が入ることも少なくないという。
「震災が長田の街を変えてしまったが、人情豊かな地域の温かさは今も残っている」と石倉さん。そして「障害のある仲間が地域で生きるひたむきさを、パンを通して知ってもらいたい」と力を込めた。
◇ ◇
今年の「一七市」は11日午前10時~午後3時、同区の若松公園・鉄人広場で。福祉事業所の製品や屋台の販売、ステージイベントがある。
2018/11/7【動画】長田マンスリー・下町余情2018/12/28
長田の下町らしさ どう生かす 下町余情座談会2018/12/28
“ごった煮”の文化が長田の魅力 下町余情座談会2018/12/27
世界に誇れるオンリーワンの技術 神戸・長田の企業2018/12/26
催しやラジオなどで活躍 神戸ながたTMO・新良恵子さん2018/12/26
ロボット開発に婦人服 町工場の底力 長田 2018/12/25
長田・丸山、坂と階段で健康お散歩会 歴史散策も2018/12/24
遊園地完成を記念? 長田・丸山に幻のご当地ソング2018/12/23
ビーチサンダル第1号は神戸で誕生 戦後の製作秘話に迫る2018/12/22
新長田の鉄人28号 ポーズは原作になし、向きにも意味が…トリビア紹介2018/12/20
新長田の鉄人28号 費用、耐震性…難題乗り越え人気者2018/12/20
新長田になぜ鉄人28号? 不屈の姿がシンボルに2018/12/19
長田で存在感増すベトナム人 各地で生まれる交流2018/12/18
神戸・長田に増える外国籍児童 母国の文化を学ぶ2018/12/17
パリで製鉄技術修業 世界とつながる町工場 長田2018/12/13
激しい目まい、緩和に描いた絵が好評 長田の介護士、15日から初販売2018/12/12
お好み焼きで自由研究 地元で食べ歩き、マップ作成 長田の小学生2018/12/9
長田のこなもん調査、「そばめし」のルーツたどる2018/12/8
長田のこなもん、道具を調査 コテ?テコ! 鉄板は6ミリ?2018/12/7
長田のこなもん徹底検証 独自進化のお好み焼き、ルーツは「にくてん」2018/12/6
長田といえば銀幕ロケ地? 昭和風情残る下町など人気2018/12/4
靴の即売会 お目当て求め2万5千人 神戸・長田で「くつっ子まつり」2018/12/3
炊き出しに長い列 新長田駅前で社福法人2018/12/2
「おひとつからでも配達します!」 高齢者助ける長田の宅配事業2018/12/1
「100人集まるで」長田最大のラジオ体操 朝の交流で心身元気2018/11/30
神戸・長田に独自のポイントカード 顧客の体質など登録2018/11/29
神戸・長田にスイーツ銀座 神社前商店街、中高生にも人気2018/11/28
鳥居前町は長寿店の宝庫-秘訣は? 半世紀続く店7割2018/11/27
六間道商店街3丁目アーケード 18年度中に撤去へ 神戸・長田2018/11/26
「今後も長田に貢献」 神戸長田文化賞3人が喜び2018/11/26
長田で「まちの文化祭」 舞台や展示で世代間交流2018/11/26
音楽で感じる兵庫の歴史 長田で県政150年コンサート2018/11/24
県内産野菜の朝市が人気 神戸新聞池田専売所2018/11/24
神戸・長田を緑でいっぱいに 住民と企業が一致団結2018/11/23
震災乗り越え今も伝える神戸の原風景 長田の路地2018/11/22
長田にも「けんか祭り」? イカナゴ漁の順番競う2018/11/21
女湯限定“神戸の夜景” 壁一面にリアルなタイル画 長田・扇港湯2018/11/20
シニアサポートで活躍、地域に愛される「看板娘」 板宿北専売所の琴町さん2018/11/18
神戸市内最多の銭湯王国・長田 “銭湯女子”と体験レポート2018/11/17
女子にも人気 昭和レトロな立ち飲み屋 神戸・長田2018/11/16
長田、魂のみかん飲料「アップル」 命名の理由は「分からん」2018/11/15
長田のぼっかけ、煮汁の比率は各店「秘密」2018/11/14
長田「ぼっかけ」 全国各地で派生食品2018/11/14
長田名物・ぼっかけ、ルーツはどこに? 地元では別名も2018/11/13
“長屋文化”再生目指す 神戸・長田の高齢者施設2018/11/11
季節外れの「サクラさん」募集 神戸・新長田の商店街 SNSに無報酬で投稿を2018/11/10
子どもと一緒に無理なく仕事 神戸・長田の「親子カフェ」2018/11/9
101回目のクリーン活動 鉄人28号の広場 神戸・長田2018/11/9
真っ黒くろちゃん 新聞販売店の猫、町の人気者に2018/11/8
障害も震災も乗り越え パン製造の作業所、今年もバザー 神戸2018/11/7
頭上の道、見えない記念物…長田・丸山“珍五景”2018/11/6
そばめしやお好み焼き… 下町の味堪能 神戸・長田で鉄板粉もん祭2018/11/5
「こなもん祭」堪能する粉もん女子 記者がインタビュー2018/11/5
長田を愛する“こなもんシンガー” イベントに引っ張りだこ2018/11/5
龍谷大教授が「関羽」解説 鉄人三国志ギャラリー2018/11/4
神戸・長田「三国志」一色に パレードや獅子舞演舞2018/11/3
海を望む共同墓地 神戸・長田に眠る華僑の先人2018/11/3
「ぽっぺん市」だけの限定品ずらり 神戸・長田神社前商店街2018/11/2
“神戸の奥座敷”に遊園地? 当時の「丸山」の面影追う2018/11/1
“神戸の奥座敷”で私設美術館 旅館だった日本家屋に作品展示2018/10/31
長田・丸山地区、急斜面に民家びっしり 昔は「神戸の奥座敷」2018/10/30
「上田能楽堂」の観世流能楽師 シテ方笠田祐樹さん(28)2018/10/29
鉄人28号も応援 神戸・長田で奄美の魅力を発信2018/10/28
奄美と神戸・長田の縁、PRに尽力 神戸奄美会の佐藤さん2018/10/28