長田マンスリー
「ぼっかけ」。インターネットや料理本などには、牛すじとこんにゃくをしょうゆやみりんなどで甘辛く煮た料理とある。テレビ番組で「長田名物」と話題になり、レトルト食品としても人気を集めて、あっという間にその名は全国区に。だが、長田の街でその看板を見かけることは少ない。「地元では『ぼっかけ』なんて言わへん。『すじ』『すじこん』や」と商店主らは口をそろえる。同じものなのに、なぜ区内外で異なる呼び名を持つようになったのか。その源流をたどった。(西竹唯太朗)
JR新長田駅から南東へ約600メートル。お好み焼き店「さんぺい」(長田区久保町6)の鉄板上に置かれた手鍋には、並々と盛られたすじ肉とこんにゃくが見える。しかし、メニュー表に「すじ」の表記はあっても「ぼっかけ」はない。
「ぼっかけありませんか?」
「えっ? あんた観光客か」と逆に問われる。
「そんなこと聞いてくるのはほとんどが観光客や」と同店主の吉村佳子さん(63)は話す。
一方、同駅から北東へ約1・5キロメートルの長田神社周辺では、「ぼっかけ」の名を冠したうどん店が数軒ある。
その一つ、同神社商店街の一画にある「味沢」は、1951年創業時から看板メニューは「ぼっかけうどん」という。
「ぼっかけとは、牛すじを“ぶっかける”という意味がなまったもの」と同店主の沢田博さん(67)。「当時は、うどんやそばなど『汁物』に牛すじが載った場合にのみ、『ぼっかけ』と呼ぶ店が多かった」と振り返る。
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長田区に食肉を加工する神戸屠場(現・市中央卸売市場西部市場)ができたのは1919(大正8)年。廃棄することも多かったすじ肉を、おいしく食べる方法として考案されたのが「すじこん」だった。同市場によると、当時はすじ肉の商品価値は低く、地元の人に安価で販売することが多かったという。
では、現在のぼっかけの知名度はどこから来たのか?
仕掛け人とも言える長田区・新長田地区のまちづくり会社「神戸ながたTMO」を訪ねた。TMOによると、阪神・淡路大震災で大きな被害があった同区を盛り上げようと、2002年にぼっかけをテーマに開いた食のイベントが鍵を握っているという。
当時、B級グルメブームが到来していたことに着目。「すじ」「すじこん」ではなく、インパクトの強い「ぼっかけ」という言葉を使い、まちの目玉商品に据えようと企画した。地元の食品会社とレトルトぼっかけを共同製作したり、ぼっかけメニューを提供する店を記した地図を作成したりしてまち起こしに乗り出した。
同社マネジャーの五十嵐聡さんは「テレビや雑誌がこぞって取り上げ、長田外の企業もぼっかけにちなんだ商品を売り始めた。街の活性化としては成功だったと思う」と自負する。
「子どものころからすじもぼっかけも両方、言葉として使っていた」と、味沢の常連客の女性(83)=同区=は強調する。ただ、あくまでも牛すじを煮込んだものは「すじ」または「すじこん」。それをうどんなどにかけたものを「ぼっかけ」、お好み焼きなどに練り込んだものは、ぼっかけとは言わなかったという。「まどろっこしいから読み方は何でもいい。味さえよければ」とほほ笑んだ。
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