長田マンスリー
神戸出身の漫画家横山光輝の生涯を描いた本紙連載がきっかけとなり、動き始めた「鉄人28号」プロジェクト。市都市計画局再開発課長の中川欣哉(63)=現・神戸みのりの公社理事長=と音楽プロデューサー岡田誠司(59)=現・NPO法人「神戸鉄人プロジェクト」事務局長=は2006年1月、横山の作品を管理する光プロダクション(東京)にいた。
「神戸の復興のため、鉄人28号を使いたい」。担当者に使用許可を願い出ると「復興の役に立てるなら」と、話に乗ってきてくれた。地元や関係者から「横山は須磨出身では?」との指摘も出たが、「新長田と近所やし、よく遊びに来ていた」と納得してもらった。
□
建設場所はJR新長田駅前の若松公園、設計はコンペで大阪市の模型・造形作家速水仁司に決まった。ここまでは順調に進んだ。
立ちはだかったのは総工費1億3500万円の工面だった。市は07年度の当初予算案に4500万円を計上。残りの9千万円は、国の市街地活性化事業での補助金を見込んでいた。しかし、国は態度を一変。1年近い説明も実らず、鉄人への不交付を決定した。「はしごを外された」と岡田。一度、事業は宙に浮いた。
悩んだ末、取り入れたのが、自販機を市有地など約50カ所に置き、協賛金を獲得する方法だった。複数の飲料メーカーと話がつき、企業の協賛や個人寄付も集まった。何とか予定額を確保。この時点で当初の計画から1年近く遅れていた。
□
制作を担ったのは大阪府岸和田市の町工場「北海制作所」(現・北海鉄工所)。最大のミッションは、身長18メートル、重さ50トンに上る巨体の耐震性だった。
「絶対に災害で倒れないように」。岡田らの注文と複雑なポーズの模型に、同社の野島秀郎(54)は渋い顔を見せた。鉄板をできるだけ薄くし、両足の真下に円柱形の基礎を打ち込んでバランスを取った。
約700枚の鉄板を骨組みに張り合わせてパーツを完成させ、新長田に運んだ。両脚、胴体、両腕、背中のロケットの順に組み立てが進み、最後に頭部を取り付け、09年10月完成した。
大阪市立大経済効果研究会は、実物大モニュメントの経済効果を半年間で142億円と試算した。
□
「無駄遣いでは」「一時的な流行に終わる」。当初は批判も多かった。まちの活気は震災前に戻ったとは言えないが、完成から9年がたち、ビアガーデン、三国志祭、琉球祭…など、若松公園の鉄人広場では年間約20件ものイベントが開かれるまでになった。インスタ映えも後押しし、外国人観光客も引き寄せる。
「震災復興と鉄人が見事に重なった。何より、故郷の一風景を作ることができたこと。それが誇り」と岡田。来秋は10周年。早速、次のアイデアを練り始めている。=敬称略=
(井上 駿)
2018/12/20【動画】長田マンスリー・下町余情2018/12/28
長田の下町らしさ どう生かす 下町余情座談会2018/12/28
“ごった煮”の文化が長田の魅力 下町余情座談会2018/12/27
世界に誇れるオンリーワンの技術 神戸・長田の企業2018/12/26
催しやラジオなどで活躍 神戸ながたTMO・新良恵子さん2018/12/26
ロボット開発に婦人服 町工場の底力 長田 2018/12/25
長田・丸山、坂と階段で健康お散歩会 歴史散策も2018/12/24
遊園地完成を記念? 長田・丸山に幻のご当地ソング2018/12/23
ビーチサンダル第1号は神戸で誕生 戦後の製作秘話に迫る2018/12/22
新長田の鉄人28号 ポーズは原作になし、向きにも意味が…トリビア紹介2018/12/20
新長田の鉄人28号 費用、耐震性…難題乗り越え人気者2018/12/20
新長田になぜ鉄人28号? 不屈の姿がシンボルに2018/12/19
長田で存在感増すベトナム人 各地で生まれる交流2018/12/18
神戸・長田に増える外国籍児童 母国の文化を学ぶ2018/12/17
パリで製鉄技術修業 世界とつながる町工場 長田2018/12/13
激しい目まい、緩和に描いた絵が好評 長田の介護士、15日から初販売2018/12/12
お好み焼きで自由研究 地元で食べ歩き、マップ作成 長田の小学生2018/12/9
長田のこなもん調査、「そばめし」のルーツたどる2018/12/8
長田のこなもん、道具を調査 コテ?テコ! 鉄板は6ミリ?2018/12/7
長田のこなもん徹底検証 独自進化のお好み焼き、ルーツは「にくてん」2018/12/6
長田といえば銀幕ロケ地? 昭和風情残る下町など人気2018/12/4
靴の即売会 お目当て求め2万5千人 神戸・長田で「くつっ子まつり」2018/12/3
炊き出しに長い列 新長田駅前で社福法人2018/12/2
「おひとつからでも配達します!」 高齢者助ける長田の宅配事業2018/12/1
「100人集まるで」長田最大のラジオ体操 朝の交流で心身元気2018/11/30
神戸・長田に独自のポイントカード 顧客の体質など登録2018/11/29
神戸・長田にスイーツ銀座 神社前商店街、中高生にも人気2018/11/28
鳥居前町は長寿店の宝庫-秘訣は? 半世紀続く店7割2018/11/27
六間道商店街3丁目アーケード 18年度中に撤去へ 神戸・長田2018/11/26
「今後も長田に貢献」 神戸長田文化賞3人が喜び2018/11/26
長田で「まちの文化祭」 舞台や展示で世代間交流2018/11/26
音楽で感じる兵庫の歴史 長田で県政150年コンサート2018/11/24
県内産野菜の朝市が人気 神戸新聞池田専売所2018/11/24
神戸・長田を緑でいっぱいに 住民と企業が一致団結2018/11/23
震災乗り越え今も伝える神戸の原風景 長田の路地2018/11/22
長田にも「けんか祭り」? イカナゴ漁の順番競う2018/11/21
女湯限定“神戸の夜景” 壁一面にリアルなタイル画 長田・扇港湯2018/11/20
シニアサポートで活躍、地域に愛される「看板娘」 板宿北専売所の琴町さん2018/11/18
神戸市内最多の銭湯王国・長田 “銭湯女子”と体験レポート2018/11/17
女子にも人気 昭和レトロな立ち飲み屋 神戸・長田2018/11/16
長田、魂のみかん飲料「アップル」 命名の理由は「分からん」2018/11/15
長田のぼっかけ、煮汁の比率は各店「秘密」2018/11/14
長田「ぼっかけ」 全国各地で派生食品2018/11/14
長田名物・ぼっかけ、ルーツはどこに? 地元では別名も2018/11/13
“長屋文化”再生目指す 神戸・長田の高齢者施設2018/11/11
季節外れの「サクラさん」募集 神戸・新長田の商店街 SNSに無報酬で投稿を2018/11/10
子どもと一緒に無理なく仕事 神戸・長田の「親子カフェ」2018/11/9
101回目のクリーン活動 鉄人28号の広場 神戸・長田2018/11/9
真っ黒くろちゃん 新聞販売店の猫、町の人気者に2018/11/8
障害も震災も乗り越え パン製造の作業所、今年もバザー 神戸2018/11/7
頭上の道、見えない記念物…長田・丸山“珍五景”2018/11/6
そばめしやお好み焼き… 下町の味堪能 神戸・長田で鉄板粉もん祭2018/11/5
「こなもん祭」堪能する粉もん女子 記者がインタビュー2018/11/5
長田を愛する“こなもんシンガー” イベントに引っ張りだこ2018/11/5
龍谷大教授が「関羽」解説 鉄人三国志ギャラリー2018/11/4
神戸・長田「三国志」一色に パレードや獅子舞演舞2018/11/3
海を望む共同墓地 神戸・長田に眠る華僑の先人2018/11/3
「ぽっぺん市」だけの限定品ずらり 神戸・長田神社前商店街2018/11/2
“神戸の奥座敷”に遊園地? 当時の「丸山」の面影追う2018/11/1
“神戸の奥座敷”で私設美術館 旅館だった日本家屋に作品展示2018/10/31
長田・丸山地区、急斜面に民家びっしり 昔は「神戸の奥座敷」2018/10/30
「上田能楽堂」の観世流能楽師 シテ方笠田祐樹さん(28)2018/10/29
鉄人28号も応援 神戸・長田で奄美の魅力を発信2018/10/28
奄美と神戸・長田の縁、PRに尽力 神戸奄美会の佐藤さん2018/10/28