勤続59年の70代ベテラン社員と、45歳の若手社長。退職金をめぐる二人のやりとりに、ネット上でしびれる人が続出しています。
社内での出来事を公式Xに公開したのは、神戸の海運会社「東幸海運株式会社」(本社、神戸市東灘区)。実際の投稿がこちらです。
「先月、当社に59年1ヶ月勤務して引退された工務監督からの電話。『途中でひと月半ほど休職してたから退職金が多すぎる』とのクレーム。『それは構わないので顧問として定年後の再雇用させて下さい』とお願いしたら快諾してくれてWin-Win。15歳で船に乗られてからの勤続年数の記録は誰にも更新できない」(同社公式Xから引用)
■「退職金が多すぎる」申し出た理由は?
同社社長の笹木重雄さん(45)に詳しい話を聞きました。
工務監督さんは現在74歳。船員の最低年齢が15歳だった頃から同社で勤務してきたベテランです(現在は船員法改正により最低年齢は16歳)。
「退職金が多すぎる」と社長に申し出た理由は、「自分の退職金のためにこれまで大切にしてきた会社にダメージを与えたくない」という思いからだったというから頭が下がります。
「当社のルールだと端数切り上げで在籍年数計算を行うので60年以上になるのと59年になるのとでは支給基準が0.5カ月違うのではというクレームだったんですが、まさに誤差レベルなので...と受け取っていただきました」(笹木社長)
■再雇用後に求める役割は?
笹木社長から見た工務監督さんは、会社にとって「長老のような存在」だといいます。
「当社の現役の船員で一番古い船長でも68歳のため、74歳の工務監督から見れば後輩になります。たとえば、そろそろ引退を考えているベテランの船員さんがいた場合にも、大先輩の工務監督から『まだ若いんだから後任が育成できるまでもうひと頑張りしよう』と声を掛けてもらえたら、私のような若造社長がお願いするより説得力があったりします」(笹木社長)
引退を決めた工務監督さんに対し、笹木社長はこれまで何度も、会社に残ってほしいと説得してきました。
「残っていただきたかった最大の理由は、実務面というよりは、会社と苦楽をともにされてきた方なので末永く見守っていただきたいという気持ちが強いです」(笹木社長)
引き続き勤務してもらえることが決まった今、工務監督さんに求める役割は。
「後任の工務監督や各船のベテランの船長や機関長が行き詰ったときの最終相談先として、安心感を与える存在であって欲しいと思います」(笹木社長)
■機関長、工務監督ってどんな仕事?
ベテランの工務監督さんがこれまで担ってきた、「機関長」や「工務監督」とはどんな業務内容なのでしょうか。
「タンカー船の仕事には大きく分けて甲板部と機関部という部署があります。甲板部は船の操縦や石油製品の積込などのお仕事、機関部はエンジンの運転やメンテナンスを行う部門です。前者の責任者が船長、後者の責任者が機関長です。工務監督というのは陸上の会社で勤務しながら、機関長をサポートする役割になります。船のメンテナンスを行う場合、上手く行かない場合にメーカーさんに問い合わせを行ったり、交換が必要な部品を手配したり、毎年1回メンテナンスを行うドックの作業手配をしたりといった役割です」(笹木社長)
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工務監督さんの実直さは多くの人の心を動かしたようで、投稿の表示回数は111万、いいねの数はあっという間に2万を超えました。現在も拡散は続き、「真面目な方なんだなあ」「海の男だ」「レジェンドですね」「尊敬する」「会社の宝」「信頼関係がすばらしい」「現場を知ってる人には残っていただきたい」「熟練社員を大切にしている…日本企業の理想が詰まってる」などの反応が相次いでいます。
(まいどなニュース・金井 かおる)