6月に株式会社パンクチュアルとの専属契約を発表した大森靖子さん
6月に株式会社パンクチュアルとの専属契約を発表した大森靖子さん

シンガーソングライターの大森靖子氏が、6月30日までに自身の公式サイトおよびSNSを通じて、株式会社パンクチュアルとの専属契約を発表しました。

メジャーレーベルを離れた後の所属先が、音楽業界ではなく“地方創生”を手掛けるにある企業だったことに、SNS上では驚きを持って受け止めたファンの声も上がりました。

契約先となったパンクチュアルは、地域の魅力発信や自治体との連携事業を手がけてきた企業。代表の守時健氏は、高知県須崎市役所職員時代にご当地キャラ「しんじょう君」の仕掛け人として注目を集め、ふるさと納税の寄付額日本一にも貢献した人物です。

音楽と地域活性という、一見すると異なる領域がなぜ今、結びついたのか。その背景と展望について、守時氏に話を聞きました。

ーー大森靖子さんとの出会いは。

守時:少し遡るのですが、私が須崎市役所に勤めていた頃から「しんじょう君」というゆるキャラを運営していて、毎週イベントに車で出かけていたんです。その時、車内ではずっと音楽を流していて、2014年頃から大森靖子さんの曲がチーム内で大ブームになったんです。私自身もライブに足を運ぶほどの大ファンでした。

しんじょう君がSNSで「大森靖子さんが好き」と発信すると、ファンの方がグッズを差し入れてくれたり、大森さんがグッズをくださったりして、自然に交流が生まれました。しんじょう君がゆるキャラグランプリで優勝してから共演の機会も増え、関係が続いていったんです。

ーー大森靖子さんがに所属することになった経緯を。

守時:ある時、大森さんから「移籍を考えている」とご相談いただきました。その理由は少しユニークで、「パンクチュアルって名前がかっこいいから」と(笑)。私としては「え、うちに興味があるの?!」と驚きました。ある意味、予想外で斜め上を行く発想でしたね。

もともと大森さんは「形にとらわれないタイプ」で、音楽業界の一般的な枠組みにあまりこだわらず、発想が柔軟な方だと思っています。社名に惹かれたことも理由の一つだと思いますが、直感的に何かフィットするものを感じたのだと思います。話を重ねる中で、方向性や想いの部分でも共通点があると感じました。

ーー大森さんの音楽と地方創生に接点がある、と。

守時:パンクチュアルは地方創生や日本の魅力発信に力を入れ、海外事業や観光、文化、食品などにも取り組んでいます。大森さんが表現している世界観も、可愛いものやかっこいいものを通じて日本の魅力を伝える点で、地方創生的な側面があると感じています。

専属契約という形をとったのは、こうした共通のビジョンがあったからです。一時的な関わりではなく、より深いパートナーシップで一緒に取り組んでいきたいと思っています。

ーー今後予定している「地域を巻き込む音楽的な取り組み」とは。

守時:僕らが持っているアセット-つまり資源やつながりを活用していける余地は大きいと思っています。まず、弊社の大きな強みは、地域に密着しながらもビジネスとして成立させられる点です。世の中には「地方創生」を掲げる会社が多いですが、人材派遣が中心だったり、ボランティア的な活動で継続性がないところも少なくありません。

もともと僕自身が公務員だったこともあって、自治体との連携や地域の巻き込み方は肌感覚があるんです。こうした経験とネットワークを活かし、大森さんの表現力を組み合わせることで、地方創生と音楽を融合させた新しい取り組みができると考えています。

たとえば、印象的な地域のスポットでミュージックビデオを撮影したり、CDジャケットやビジュアルにその土地の風景や特産を少し取り入れるだけでも、地元の人たちにとっては嬉しいことです。メディアに取り上げられると、地方では一つの文化的ニュースが町全体に波及します。

もちろん一番大事なのは大森さんのやりたいことや世界観ですが、地域性を少し掛け合わせることで、これまでにない展開が生まれると思っています。

ーー大森さんが、「音楽でどこにだって東京を創れる」と言及されているのを目にしました。

守時:はい、実はその言葉を聞いたとき、ちょっと考え込んだんですよね。僕たちが地方創生の現場で日々向き合っているのって、ある意味で“東京一極集中”という日本の構造的な課題なんです。

今の日本って、優秀な若者ほど東京に吸い寄せられていく構図がある。でもその裏側で、地方の人口はどんどん減って、地域の活力が失われていってしまう。東京が強いのは、田舎の人材や資源が流れ込んでいるからこそで、結果として東京は“ブラックホール型自治体”のようになってしまっている。

だからこそ僕らは、「東京にしかできないことなんて本当はない」と思っているんです。お金やモノ、人材が地方にも循環するように仕組みをつくっていけば、そこにだって文化は育つし、豊かさも生まれる。音楽という表現を通して、どこにでも“東京”のような熱量や創造性を持った空間をつくれる--そういう感覚を、大森さんの言葉から感じました。

なので、「どこだって東京を作れる」というのは単なる希望じゃなくて、僕らにとっても現実的な戦略なんです。どこであっても文化や経済が自走できる社会。それが実現できれば、東京だけが特別である必要はないと思っています。

ーー今後、パンクチュアルとして目指す「アーティストとの共創」の理想像を。

守時:大森さんを通じて、地方の魅力を彼女の独特な表現力と一緒に世界へ届けていきたいという想いがあります。そこで得られた成果を、今度は彼女自身の活動に再投資し、より自由に、より大きな世界観を実現してもらう。その成長がさらに新しい地域の魅力や文化の発信につながっていく。

そうやって「アーティストの表現」と「地域の可能性」が循環していく仕組みをつくることが理想です。お互いに価値を高め合いながら、共に大きく成長していければ最高だと思っています。

■守時 健さんプロフィール

もりとき・たけし 1986年岡山県倉敷市生まれ。関西大学卒業後、高知県須崎市役所で商工観光を担当し、ご当地キャラ「しんじょう君」を企画・プロデュース。SNS戦略やPRで人気を集め、2016年にゆるキャラグランプリ全国1位に。ふるさと納税の寄付額も大きく伸ばす。2020年に独立し、株式会社パンクチュアルを設立。「高知かわうそ市場」などの事業を展開し、地方の魅力発信や地域活性に取り組む。現在は複数の団体で代表・理事を務め、行政×民間の知見で全国の自治体と連携中。
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大森靖子「音羽楽園TOUR 2025」(一般チケット、学割チケット発売中)
8/23(土) 【広島】LIVE VANQUISH
8/24(日) 【福岡】DRUM LOGOS
8/31(日) 【北海道】札幌PENNYLANE24
9/5(金) 【愛知】名古屋ダイアモンドホール
9/6(土) 【京都】磔磔 完売
9/7(日) 【大阪】なんばHatch 2階席完売
9/20(土) 【石川】金沢EIGHT HALL
9/21(日) 【富山】富山MAIRO 完売
10/2(木) 【東京】Zepp Diver City (TOKYO) 2階席完売

(まいどなニュース特約・青島 ほなみ)