人気シリーズに主演する松本卓也(撮影:石井隼人)
人気シリーズに主演する松本卓也(撮影:石井隼人)

「役と自分の境界線がぼやけてきた」

そんな感慨を口にするのは、俳優の松本卓也(30)。ポンコツの殺し屋・真中を演じる主演作『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』が10月10日から公開される。

■ファン待望の新作に主演

『ベイビーわるきゅーれ』で知られる俊英・阪元裕吾監督による、殺し屋フェイクドキュメンタリー待望の新作。フリーランスの殺し屋・国岡(伊能昌幸)の淡々とした日常と殺しに密着した『最強殺し屋伝説国岡』を原点とする連作もので、これまで『グリーンバレット』、『国岡ツアーズ』、YouTubeでは「殺し屋密着チャンネル」が製作されて人気を博してきた。

今回は国岡の友人でポンコツの殺し屋・真中(松本)に密着。無敵の殺し屋である偉大な父に勝負を挑む日々を追いかける。

淡々と殺し屋業を遂行していく国岡とは違い、真中はかなり危なっかしい。殺し屋としてのプロ意識及びスキルも低く、すぐ酒に逃げる。宅飲みで寂しくなると年下の後輩を呼びつけて不平不満を口にするも論破される。生活のためにUber Eatsと武器配達のUber Shootsを始めるも、ガパオライスを頼んだ一般宅に間違って拳銃を届けてしまう。

踏んだり蹴ったりの真中は、連れ戻された実家で家事手伝いの日々を送ることに。しかし殺し屋稼業への思いは断ち切りがたく…。

■阪元監督もついつい笑う

『国岡』シリーズ名物サブキャラ・真中がついに主人公に。松本は「2年くらい前に『国岡』シリーズを続けたいと直談判した際に阪元監督から『松本が主演でいいじゃん』と言ってもらえたものの、まさかここまでガッツリと僕が主人公になるとは。阪元監督と国岡役の伊能が作り上げてきたものを壊すわけにはいかないと、かなりの気合を入れて臨みました」

阪元監督をはじめ、俳優の伊能、大坂健太ら主要メンバーとは、大学時代から数えて10年以上にもわたる仲。「軸となる脚本はあるものの、ドキュメンタリーのように撮るので素の部分が出やすい。大坂君と撮影している時に普通に『松本さん』と呼ばれてNGになるような事もありました。僕自身、シリーズを重ねるごとに真中という役が自分に近づいている感覚があって。役と自分が引っ張り合っているというか、境界線がぼやけてきた気がします」

撮影は小規模先鋭の自主製作スタイルで敢行。カメラを回しながら思わず吹き出す阪元監督の笑い声が、画面外から聴こえてくる。周囲の意見に左右されず、自分たちが面白いと思うものを自由に撮れている実感。アマチュア時代に熱中した映画作りと同じ興奮がそこにはあった。

「阪元監督は面白いものが撮れると本番にも関わらず笑う癖がある。僕としては目の前でリアクションしてくれるのは本当に嬉しいことで、良いシーンになっているんだという自信に繋がります」

■感涙する観客も

全国公開に先んじて、8月に開催された大阪アジアン映画祭でワールドプレミア上映された。なぜ殺し屋を続けたいのか?そんな真中の葛藤に共鳴し感涙する人もいたという。

「上映中にドカドカ笑い声は上がるし、僕が演じる真中がお酒の誘惑に負けるシーンでは『ああ…』という溜息まであったそうです。上映後に泣いているお客さんもいらっしゃいました」

可笑しくも胸を熱くさせる。こんなにエモい殺し屋モキュメンタリー、他にない。この先も阪元監督のライフワーク的シリーズになっていくに違いない。松本もそれを熱望している。

「国岡役の伊能も年老いた国岡の殺し屋としての矜持を演じてみたいと言っているので、そこまで僕も彼の隣にいたい。阪元監督には一生付き合っていくつもりなので、どうか劇中で真中を殺さないでいただきたいです。真中が死なない限り、僕も粘り強く画面に映り続けていきます」と意気込んでいる。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)