東大生以外はバカだと考えている(ワダユウキさん提供)
東大生以外はバカだと考えている(ワダユウキさん提供)

努力の末に念願の一流大学へ進学すると、自己肯定感が高まるのは自然なことです。しかし周囲からちやほやされるうちに、次第に「学歴こそがすべて」と思い込んでしまう人も少なくありません。

そんな学歴を唯一の物差しとして他者を見下すようになった人物の姿をリアルに描いた作品『"俺は有能でエリートだから偉い"偏った価値観の末路』(原作:石井光太/構成:鈴木マサカズ/作画:ワダユウキ)が、学歴主義の危うさに警鐘を鳴らす作品として話題を集めています。

物語は、主人公・秀喜の「俺は…偉い…!」「勉強を頑張ってきて本当によかった!」という歓喜の叫びから幕を開けます。努力の末、東大医学部に合格した秀喜は、周囲から尊敬と羨望の眼差しを向けられる存在となりました。大学入学後、東大のサークルに所属すると、学外の女性たちからも注目を集め、モテるようになります。

そうした環境の中で、次第に秀喜の価値観は歪み始めていきました。サークルの飲み会では、会計を女性が負担するのが当たり前であり、女性たちは「東大生と付き合う」というステータスを求めて群がります。

秀喜にとって女性を口説くことは簡単で、どんな女性でも「手に入れられる」と思い込むようになっていました。その結果、秀喜や仲間たちは学歴への執着を深め、東大医学部以外の人間を人間として見なさなくなっていったのです。

秀喜は「世の中、馬鹿ばっかりだ」と考え、学歴こそが人間の価値を決める絶対的な基準だと信じて疑わないようになるのです。やがて、秀喜たちは仲間内で「医学部クイズ帝国」というサークルを設立します。SNS上で医学知識を駆使した難問クイズを配信し、フォロワーを集めては称賛を浴びる日々を送ります。

秀喜たちはフォロワーたちを飲み会に招きますが、支払いは一切しませんでした。「学力の低い人間が払うのが当然」という傲慢な価値観に染まり、「自分たちはバカに付き合ってやっている」という歪んだ優越感が支配していたのです。飲み会の場でも学歴自慢が続きましたが、女性たちも「医者と付き合いたい」「結婚したい」と媚びへつらい、誰もその異常さを指摘しませんでした。

そして、ついに事件が起こります。秀喜たちはマンションに女性たちを呼び出し、「マル秘クイズ帝国」と称して罰ゲームを口実に、女性たちが服を脱ぐ様子を男性限定で有料配信するようになりました。お金に困っていない秀喜たちにとって、ただの遊びのつもりでしたが、次第に行為はエスカレートしていきます。女性に睡眠薬入りの酒を飲ませ、眠ったところを性的暴行するという、取り返しのつかない犯罪を犯してしまったのです。

後日、被害者の一人が警察に訴え、秀喜たちは逮捕されました。取り調べの際、秀喜は驚くほど冷静に「あいつらはバカだから。何をやってもいいと思っていました」と語ります。学歴への過剰な自信が、道徳も人間性も失わせていたことに、彼自身は最後まで気づくことができなかったのです。

同作は『教育虐待-子供を壊す「教育熱心」な親たち』からの抜粋であり、作画担当のワダユウキさんに話を聞きました。

■この作品を通して危険な道を回避できる光を照らせれば

ー主人公の人物像を描く際に、どんな点にリアリティを持たせようと意識されましたか?

今回の主人公はなかなか出会う事のない人物像だと思います。しかし、皆さんも今回の主人公の様な片鱗を持っている方(プライドの高い人や威圧的な人)に遭遇、出会った事があると思います。私もあります。そういった方の最高位に今回の主人公像があるのかなと。なのでそういった方の仕草や振る舞いをかき集めリアリティが出るよう試行錯誤しました。

ー社会的地位や学歴が人格形成に与える影響について、どのように感じていらっしゃいますか?

地位や学歴が人格形式に与える影響は良い意味でも悪い意味でも大きいと思います。今回の主人公の場合は周りの大人たちによって地位や学歴の誇りが重圧、甘い蜜、くだらない虚勢に成り下がってしまった。

私は地位や学歴に縁のない人生を歩んできたので偉そうなことは言えませんが勉強以前に土台(環境や心)が大事なんじゃないかと思います。(私の場合は自由にさせてもらった分、勉強が不足しているのでそっちをもっと頑張らなければと思ってます。心もまだまだ未熟なので精進します笑)

ー読者からどのような反応や意見が届いていますか?

今回のエピソードではないですが似たような教育虐待やそれに近しい経験をした方が想像以上に多い事に驚きました。印象に残った声としてはどのエピソードも苦い終わり方が多い中で"第14話・無料塾"のコメント欄が祝福の声が多く嬉しくなりました。(救いのあるエピソードなので読んでみて下さい)

ー読者へメッセージを。

教育は誰もが先人の示した道を通り、いずれ誰もが道を示す先人になると思っています。この作品を通して少しでも危険な道を回避できるよう光を照らせればと思います。読者の方は是非、周りにお薦めして下さい。未読の方は是非、読んでみて下さい。

(海川 まこと/漫画収集家)