「何日間、あの暗い隙間の中で鳴き続けていたのだろう…」
昨年(2025年)のお盆休み明け、静まり返った職場の敷地内に、か細い鳴き声が響いていた。声の主は、3メートル下の隙間に落ちてしまった子猫。その命をつないだのは、偶然居合わせた大人たちの“諦めない気持ち”だった。
この救出劇をInstagramで公開したのは、格安バンをDIYしカーライフを楽しむ投稿者、佐々木 幸一さん(@kouichi2822)。動画は瞬く間に広がり、「映画みたい」「涙が出た」と多くの反響を呼んでいる。
■母猫の姿はなく、聞こえるのは鳴き声だけだった
子猫は、盆休み直前に職場の敷地内で生まれた野良猫の赤ちゃんだった。休み前までは母猫と兄弟たちと一緒に暮らしていたが、連休明けに出勤すると、母猫と兄弟の姿は消え、鳴き声だけが残されていた。
「落ちていた隙間は高さ約3メートル。中は尖った釘だらけで、食べ物もありませんでした。母猫も助けられず、泣く泣く諦めたのではないかと思います。とにかく“早く助けなければ命が危ない”と感じました」
■ロープは断念…“安全”を最優先した救助の工夫
最初に試したのは、ロープの先にタオルを結びつけ、子猫がしがみついたら引き上げる方法。しかし、体が浮いた瞬間に手を離してしまい、落下の危険があった。
「もし途中で離したら、釘に当たってしまう。この方法は続けられないと思いました」
そこで即席で作ったのが、引き上げると入口が上を向き、落下を防ぐ構造のカゴ。中にはタオルを敷き、子猫が安心できるよう工夫した。だが、カゴを下ろしただけでは子猫は近づかない。おびえ切った小さな命は、まだ人を信じきれなかった。
■「この子が一番欲しいのは何だろう」…答えは“お母さん”
手の届かない場所。無理に誘導することもできない。そこで考えたのは、「この子が今、いちばん欲しいものは何か」。答えは、母猫の存在だった。
救助に立ち会った職場の仲間が、“母猫役”として鳴き真似を始めると、子猫はそれに応えるように鳴き始めた。笑い声を交え、上ではあえて賑やかな雰囲気を作る。
「上に来たら、楽しいことが待ってるよ」
そんな空気が、少しずつ子猫の心を動かしていった。
■心が通じた瞬間、子猫は自らカゴへ
しばらくすると、子猫は自分の意思でカゴの中へ。鳴き声で“会話”を続けながら、ついに…。
「引き上げた瞬間、ホッとして力が抜けました。“生きる方を選んでくれた”“僕らに心を開いてくれた”と感じて、本当にうれしかったです」
その瞬間、もう“救助対象”ではなかった。「飯行くぞ」と声をかけ、ミルクとごはんを買い、順番に抱っこし、お風呂にも入れた。
「たった1日だけの仲でしたが、最高の思い出になりました。ずっと後をついてくるんですよ、あの子(笑)」
■今は“愛される日常”の中で
子猫は現在、同じ職場の仲間の家で里子として暮らしている。先住猫たちにも可愛がられ、やんちゃをしながら元気に成長中だという。
「生まれてすぐ母猫や兄弟と離れてしまったこの子にとって、今の環境は本当に幸せだと思います。里親さんには感謝しかありません」
動画のコメント欄には、
「こんな場所から助けてくれてありがとう」
「道具も声かけも完璧」
「優しさに涙が出た」
と、感謝と称賛の声が並んでいる。
■小さな命を救ったのは、“技術”よりも“想像力”
今回の救出に、特別な機材や専門資格があったわけではない。あったのは、子猫の気持ちを想像し、待つ勇気だった。
「助ける側が焦らず、心が通じる瞬間を信じること。それが、この子を救えた理由だと思います」
3メートル下の暗闇から始まった、人と猫の“友情の物語”。その結末は、確かに温かい未来へと続いていた。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)























