白、赤、2種類のケースを用意して、2本のヒモを引っ張れば瞬時に広げられる
白、赤、2種類のケースを用意して、2本のヒモを引っ張れば瞬時に広げられる

スマホやモバイルバッテリーの発火事故が後を絶ちません。落下の衝撃や経年劣化により、内蔵のリチウムイオン電池が発火するケースが報告されています。

東京ビッグサイトで開催された「産業防災展2026」の会場を歩いていたとき、少し変わった名前の製品を見つけました。シートをかぶせるだけで延焼を防ぐという「ひけシ~ト」なる耐火シート。「火消し」と「シート」を合わせた造語なのでしょう。さっそく販売元の株式会社イーエムエーの担当者に話を聞きました。

「リチウムイオン電池は、スマホ、モバイルバッテリー、ノートパソコン、コードレス掃除機など、身の回りのあらゆる製品に使われています。便利な反面、衝撃や劣化によって発火するリスクがあります。いったん発火すると、燃え尽きるまで消火が非常に困難です」と担当者は説明します。

水をかけても内部で燃焼が続き、完全に鎮火させるには大量の水で冷却し続ける必要があるといいます。

■世界で1500万枚以上の販売実績。酸素を遮断して静かに燃やす

「ひけシ~ト」は、発火したリチウムイオン電池を覆うことで、酸素の供給を遮断します。すると激しい炎は収まり、内部で静かに燃焼が続く状態になるそうです。

「完全に消火するのには時間がかかりますが、炎の拡大を抑え、延焼を防ぐことができます」。シートの素材は耐熱温度約550℃のガラス繊維。シート表面にシリコンを塗布しているため、通気量を99%低減し、窒息消火に効果的といいます。

また、ガラス繊維が直接肌に刺さらないため、火災の際はシートをかぶって火から身を守りながら避難することも可能だといいます。2本のヒモを引っ張ることで瞬時に取り出せて、火元を覆うだけで初期対応ができる手軽さが特徴です。

開発でもっとも苦労したところを聞くと、「思うように品質が安定しない課題がありました。解決策として、糸を編む機械にAIを導入し学習させることで、一定の品質で安定的に生産することが可能になりました」とのこと。

現在、「ひけシ~ト」は国際的な認証を数多く取得し、世界中で1500万枚以上の販売実績があります(2025年末時点)。日本でも一般社団法人防災安全協会の認証を取得しており、防災必要性・安全性・機能性において審査会の評点をクリアしています。サイズは120✕120cmで税込価格4400円。

■残された課題は床へのダメージをどうするか

ただし、取材を進める中で気になる点もありました。「ひけシ~ト」は酸素を遮断して炎の拡大を抑えますが、内部では燃焼が続きます。ということは、床はどうなるのだろう?  コンクリートやアスファルトの上ならまだ被害は少ないかもしれませんが、電車の車両内、航空機内、自宅のフローリングの上だと、床が焦げて穴が空くかもしれない。

この点について確認すると、「燃えはじめてしまったバッテリーを、何かしらの形でシートに包むことで床へのダメージを低減するというのは、安全上の観点から現状は難しい」との回答でした。つまり、あくまで延焼防止が目的であり、床へのダメージまでは防げないということです。

私から提案したいのが、「ひけシ~ト」を巾着袋型にした製品です。発火したモバイルバッテリーやスマホを、トングで掴んで巾着袋型のシートに入れ、口を閉じて安全な場所まで移動する。あるいは、そのまま水を張ったバケツに沈める。こうすれば、床へのダメージを最小限に抑えられるかもしれません。

現状のシート型では、どうしても、その場で燃え尽きるのを待つしかありません。しかし、巾着袋型なら、発火物を隔離して移動できます。トングとセットで販売すれば、より実用的な初期消火用品になるように思いました。

もちろん、発火直後の高温状態では触れることすら危険です。しかし、シートで覆って炎が収まった後なら、トングでつかんで移動することも可能ではないでしょうか。メーカーには、こうした使い方の検証も含めて、製品の進化を期待したいところです。

■EV火災にも対応、海外では大型シートも

話を聞いて興味深いのは、EV(電気自動車)火災への応用でした。EVに搭載された大容量リチウムイオン電池が発火した場合、消火には膨大な量の水が必要です。そこで、車両ごと大型の耐火シートで覆うことで、炎の拡大を抑える手法の検討を進めているといいます。「日本でもEV火災対策として、こうした大型シートの導入を検討する価値があるのではないでしょうか」と担当者は話していました。

EVの普及が進む中、火災対策は喫緊の課題です。消防車が到着するまでの初期対応として、大型シートを常備しておくことは、被害を最小限に抑える有効な手段になるかもしれません。

■初期消火の選択肢として

「ひけシ~ト」は、家庭内での初期消火を目的とした製品です。火の勢いが強い場合やシートで覆うことが難しい場合は、直ちに安全な場所へ避難し、消防署へ通報することが大前提です。また、基本的に使用期限は定められていませんが、ヒモ部分など劣化する場合があるため、定期的な点検(6カ月毎を推奨)が必要です。繰り返し使用することはできず、特に油の消火に使用した場合は、シートの油に火が付着する危険があるため、再使用は厳禁とのことです。

リチウムイオン電池火災は、今後も増加が予想されます。完璧な製品はありませんが、初期対応の選択肢として、「ひけシ~ト」のような製品を知っておくことは無駄ではないでしょう。

▽株式会社イーエムエー

(まいどなニュース特約・鈴木 博之)